2020年2月25日火曜日

意匠充填系土器

縄文土器学習 355

加曽利貝塚博物館E式土器企画展の展示土器について学習しています。
2020.02.23記事「加曽利EⅢ式土器学習のポイント」で加曽利EⅢ式土器が次の3種から構成されていることを知りました。

加曽利EⅢ式土器の3つの種類
ア キャリパー形土器
イ 意匠充填系土器
ウ 横位連携弧線文土器

このうち意匠充填系土器として加曽利EⅢ式深鉢(酒々井町墨木戸遺跡)企33 観察記録3Dモデルを掲載しました。この記事では加納実先生論文における意匠充填系土器説明を学習するとともに、企33土器について観察します。(企33はこのブログの整理番号)

1 加納実先生論文における意匠充填系土器の説明
「意匠充填系土器とは、読んで字の如く、主として隆帯で、器面に個別の意匠(パネル状に縄文部をふちどる意匠・文様)を充填してゆく(はめ込んでゆく)もので、イメージとしては、巷のジグソーパズルの完成へ向けての工程を紡彿させる。
具体例としては第2図7のように、胴部上半に主文様である渦巻文を描出し、渦巻文間を逆三角形風の意匠(副文様として捉え得る)や、中央部が幅狭に歪む縦長の長方形風の意匠(これもまた副文様として捉え得る)で充填するもので、胴部下半も、末端を解放しているものの、懸垂文風の方形の意匠を、上端を渦巻文に沿わせながら充填している。

第2図7
しかし、厳密に謂うならば、主文様間に副文様を充填するのではなく、主文様の描出により二次的に生成した主文様間の空隙部を、我々が副文様として認識しているに過ぎない。
意匠充填系土器群の意匠描出技法・意匠描出効果の注目すべき性格として、磨消縄文手法に関わる相反する2つの性格の内包を挙げておかなければならない。これは意匠充填系土器は、個別のパネル状の意匠を器面に空隙なきように充填してゆく手法を採るために、意匠描出効果として、図(縄文)/地(無文)の対照効果に極めて乏しい点である。
 しかしながら、意匠を描出する隆帯と隆帯両脇のナゾリ部には決して縄文が施されることはなく、 幅狭の無文部を確実に有しているとも言えよう。
 この相反する性格の内包は、 後述する他系統の土器群への影智を読みとる際に困難をきたすこととなる。 しかしながら意匠充填系土器そのものの展開に際し ては、幅狭の無文部の存在が優先されている。
具体的には、 意匠充填系土器成立段階の意匠描出技法は、一義的には1本の隆帯(単浮線)で為されているが、 充填されている個々の意匠そ のものの縁取りは、隆帯ではなく隆帯両脇のナゾリによって為されており、隣接する2つの意匠描出に関わる隆帯は1本である。
 しかし加曽利E式土器の意匠描出技法の基本的性格である磨消縄文技法のもと、 “図/地” 効果を獲得してゆく過程(個別の意匠間に無文部を設ける) のなかで、隆帯両脇のナゾリを幅広に獲得するのではなく、個別の意匠毎に “隆帯+両脇のナゾリ” の描出技法を獲得し、結果として2本隆帯(複浮線 第4図3)が出現することとなる。

第4図3
この結果、 意匠充填系土器は本来有していた相反する性格のひとつである貧弱な “図/地” 効果を払拭し、 磨消縄文技法(卓越した “図/地” 効果)を優先的に消化し、 "図” である縄文部の意匠の単位文化を獲得してゆくこととなる。」
加納実(1994):加曽利EⅢ・Ⅳ式土器の系統分析-配列・編年の前提作業として-、貝塚博物館紀要第21号(千葉市立加曽利貝塚博物館) から引用

2 加曽利EⅢ式深鉢(酒々井町墨木戸遺跡)企33 の観察

加曽利EⅢ式深鉢(酒々井町墨木戸遺跡)企33 展開写真
GigaMesh Software Frameworkにより観察記録3Dモデルから作成

展開図をよく見るとこの土器の隆帯(浮線)は2重になっていて、上記加納実先生論文でいう2本隆帯(複浮線)土器です。加曽利E式土器の意匠描出技法の基本的性格である磨消縄文技法のもとでのナゾリの幅広化ではなく、隆帯+両脇のナゾリという技法出現の実例です。
次に2本隆帯(複浮線)の様子を詳しく観察してみます。

観察個所 白線部

観察結果
加納実先生論文にいうとおり、隆帯の両側に幅が狭い磨消部がありそれらが個別意匠(例a)を縁取って縄文部が図になるべく機能させようとしています。

3 感想
加曽利EⅡ式土器で絶頂期を迎えた房総縄文社会で、その後のEⅢ式期になると意匠充填系土器というそれまでとは異質の土器が出現したことの意味検討は大いに興味をそそります。
急成長社会が崩壊して、混乱没落している時代に周り社会の影響が房総に及んできた様子の一端であると考えます。

0 件のコメント:

コメントを投稿