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2021年4月4日日曜日

加曽利EⅠ式期における浅鉢等一括

 埼玉編年のデータベース化による分析的学習 6

縄文土器学習 571

埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)5群土器について学習しましたので、メモします。2021.04.04記事「加曽利EⅠ式期における勝坂式・中峠式系統土器」の後続です。

1 埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)の土器群構成


埼玉編年土器群分類と有吉北貝塚土器群分類の対応

2 5群土器11細分の理解

…………………

Ⅸ期・Ⅹ期 5群土器 分類メモ

1 浅鉢有文

【Ⅸa期A類(25)】

口縁部…キャリパー形土器と同じ文様

【Ⅸa期B類(26)】

口縁部…隆帯文様

勝坂式から連続

【Ⅸa期C類(27)】

口縁部…文様なし、隆帯による渦巻文

勝坂式から連続

【Ⅸb期A類(16)】

口縁部…隆帯連結区画文、撚糸文

「く」の字状外反、器高大きくなる

【Ⅸb期B類(17)】

口縁部…隆帯区画文

【Ⅹ期A類(19、20)】

口縁部「く」の字状屈曲、文様帯

器高高くなる

2 浅鉢無文

【Ⅸa期D類(28)】

無文

勝坂式から連続

【Ⅸb期C類(18)】

無文、胴上半部に丹を塗るもの多い

「く」の字状外反、器高大きくなる

【Ⅹ期B類(21、22)】

無文

3 器台等一括

【Ⅸb期D類(19)】

器台土器

【Ⅹ期C類(23~26)】

有孔鍔付土器、台付甕形土器、コップ形土器、器台形土器

Ⅹ期にC類の存在が顕著になる

…………………


埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)5群土器(浅鉢等一括)分類の理解

3 5群土器分類理解の3D資料化

5群土器分類の理解(カードの空間配置)を3D資料にして、3D空間でカード記述を読めるようにしました。

埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)5群土器(浅鉢等一括)分類カードの3D展開 素材1

このモデルの趣旨:埼玉編年(1982)土器分類を理解学習するための3Dツール作成用素材


素材3Dモデルの動画

4 感想

・浅鉢も深鉢と同じく加曽利EⅠ式土器本隊であるキャリパー形と同じ口縁部文様帯をもつものと、勝坂式土器系統のものがあることを知りました。

・Ⅸb期になると浅鉢の器形が「く」の字状外反して器高が高くなる現象は興味を深める対象になります。浅鉢土器が食べ物をディスプレイする機能を持っていると考えるならば、食べ物の量とか質が向上し、それに合わせてディスプレイ容器もデザインされ、大きくなったと空想します。社会が豊かになったのです。

・浅鉢に有文のものと無文のものが並存することの意味に大いに興味が湧きます。後晩期耳飾に精巧で豪華な文様があるものと、簡素なものがあるのと類似の状況がすでに存在していたのではないかと空想します。社会のなかで簡素な祭器利用しか許されない家族(集団)と豪華な祭器を利用できる家族(集団)が並存していた。(?)

加曽利EⅠ式期における勝坂式・中峠式系統土器

 埼玉編年のデータベース化による分析的学習 5

縄文土器学習 570

埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)4群土器について学習しましたので、メモします。2021.03.29記事「加曽利EⅠ式期における曽利式比定土器」の後続です。

1 埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)の土器群構成


埼玉編年土器群分類と有吉北貝塚土器群分類の対応

2 4群土器7細分の理解

…………………

Ⅸ期・Ⅹ期 4群土器 分類メモ

1 主文様帯の位置 口縁部

【Ⅸa期B類(21)】

口縁部文様帯…勝坂式文様、地文…縄文

勝坂式、西部分布

【Ⅸa期C類(22)】

口縁部文様帯…刻みのある隆帯、刺突文など

中峠式、東部分布

【Ⅸa期D類(23)】

口縁部文様帯…刻みのある隆帯と沈線、眼鏡状把手多い

中峠式、東部分布

【Ⅸa期E類(24)】

口縁部…蛇行する隆帯

中峠式、東部分布

【Ⅸb期B類(11)】

橋状把手4単位、口縁部文様帯…櫛状沈線文

極少数

2 主文様帯の位置 胴部

【Ⅸa期A類(20)】

円筒形、幅広な胴部文様帯…沈線化

勝坂式、西部分布

【Ⅸb期A類(12)】

胴部文様帯…勝坂式

極少数

…………………


埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)4群土器(勝坂式・中峠式系統)分類の理解

3 4群土器分類理解の3D資料化

4群土器分類の理解(カードの空間配置)を3D資料にして、3D空間でカード記述を読めるようにしました。

埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)4群土器(勝坂式・中峠式系統)分類カードの3D展開 素材1

このモデルの趣旨:埼玉編年(1982)土器分類を理解学習するための3Dツール作成用素材


素材3Dモデルの動画

4 感想

・勝坂式土器の盛期はⅧ期までで、中峠式土器の時期はⅧ期ですが、Ⅸ期初頭(Ⅸa期)には両方の型式ともに残存してⅨb期には極少量になり衰滅したことがわかります。

・Ⅸa期、Ⅸb期には1群~4群の土器が存在していて、出土土器の器形や文様がきわめて多様性であることに改めて驚きます。Ⅹ期になると1群~3群土器の出土で1群土器の優勢が見られますが、それでも器形や文様の多様性が自分の想像以上に大きなものとなっています。

2021年3月28日日曜日

加曽利EⅠ式期における曽利式土器・勝坂式土器影響下土器

 埼玉編年のデータベース化による分析的学習 3

縄文土器学習 564

埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)2群土器について学習しましたので、メモします。

1 埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)の土器群構成

埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)の土器群構成と有吉北貝塚土器群分類の対応をみると次のようになります。


埼玉編年土器群分類と有吉北貝塚土器群分類の対応

・埼玉編年土器群分類学習は有吉北貝塚土器群分類学習の一環として行っています。有吉北貝塚土器群分類が埼玉編年を使っているからです。

・埼玉編年1群土器の学習はすでに行いました。


埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)1群土器(キャリパー形土器)分類の理解

2 2群土器12細分類の理解

2群土器は12細分類されていますが、どの土器型式から影響を受けたか、主要文様帯は口縁部か胴部かという観点から再整理して理解しました。

…………………

Ⅸ期・Ⅹ期 2群土器 分類メモ

1 3群土器の影響を受けた土器

1-1 主要文様帯の位置 口縁部

1-1-1 隆帯による突起状渦巻文土器

【Ⅸa期B類(10)】

・3群土器B類の影響

1-1-2 沈線区画文土器

【Ⅸa期D類(12)】

・3群土器D類の影響

・西部

1-2 主要文様帯の位置 胴部

1-2-1 口縁部内曲、胴部文様土器

【Ⅸa期C類(11)】

・3群土器C類の影響

・撚糸文多い

・西部

1-2-2 細隆帯文様土器

【Ⅹ期B類(11)】

・3群土器の影響

1-2-3 隆帯渦巻文土器

【Ⅹ期C類(3)】

・3群土器の影響

2 4群土器の影響を受けた土器

2-1 主要文様帯の位置 口縁部

2-1-1 朝顔形で肥厚した口縁部文様帯土器

【Ⅸa期F類(14)】 ・Ⅸa期4群D類の影響

【Ⅸb期B類(10)】

【Ⅹ期D類(13、14)】 ・Ⅸb期B類の系統

・東部

2-2 主要文様帯の位置 胴部

2-2-1 口縁部外反胴部文様帯土器

主要文様帯…胴部

【Ⅸa期A類(9)】

【Ⅸb期A類(9)】

【Ⅹ期A類(10)】

・Ⅸa期 4群土器A類の影響

3 大木8a式の影響を受けた土器

3-1 主要文様帯の位置 文様希薄

3-1-1 口縁部外反胴部膨張撚糸文土器

【Ⅸa期E類(13)】

・口唇部は大木8a式の影響

・西部

…………………


埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)2群土器(曽利式・勝坂式影響下土器)分類の理解

3 2群土器分類の理解の3D資料化

2群土器分類の理解(カードの空間配置)を3D資料にして、3D空間でカード記述を読めるようにしました。

埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)2群土器分類カードの3D展開 素材1
このモデルの趣旨:埼玉編年(1982)土器分類を理解学習するための3Dツール作成用素材

現在は3Dモデル作成技術が虚弱なため、資料に整飾・注記を描き込むことが不十分であり、素材だけの3D配置になっています。


素材3Dモデルの動画

4 感想

1群土器は器形がキャリパー形土器で主文様帯は口縁部であり、斉一性が特徴です。一方2群土器は曽利式影響土器も勝坂式影響土器も器形、主文様帯の位置がバラバラです。そもそも曽利式土器、勝坂式土器ともに器形や主文様帯の斉一性は高くないようです。

この特徴から次の2点について今後の学習を深めたいと思います。

ア 加曽利EⅠ式土器で斉一性が高い理由

・広域の人々に影響を与える(おそらく広域の人々に「恩恵」を与える)新しく、注目するに値する「何か」(技術?制度?環境?)が生まれ、その「何か」に合わせて土器斉一性が生まれたと空想します。

イ 2群土器が継続する理由

斉一性の高い1群土器を作る人々が同時に2群土器も作っています。和食中心の生活の中で、時々中華や洋食も食べる生活と同じような状況があります。

土器文様に物語や神話が紐づけられていると考えると、縄文人は地域社会が共有するメインの物語・神話以外に、いわば異郷の物語・神話にもエキゾチックな興味をもっていたのかもしれません。

2021年3月21日日曜日

加曽利EⅠ式土器細分類の学習 その2

 縄文土器学習 562

この記事は2021.03.07記事「加曽利EⅠ式土器細分類の学習」につづく記事です。

埼玉編年資料における加曽利EⅠ式土器細分類がどのような指標で行われているのか、その専門分野の様子を知るために埼玉編年資料と3Dモデル観察した加曽利貝塚博物館企画展展示土器11器との対応を検討しています。

この記事では埼玉編年資料における加曽利EⅠ式土器細分類指標を体系的に整理し、その体系に従って11土器を細分類しました。このような作業を行うことによって埼玉編年土器細分類の実体を感覚的に理解することが出来ると考えました。

1 埼玉編年における加曽利EⅠ式土器細分類指標の体系的整理

埼玉編年における加曽利EⅠ式土器細分類指標を、機械的になりますが、次に体系的に整理してみました。

…………………

1 器形種別

1-1 キャリパー形土器

1-2 キャリパー形土器以外

2 主要文様帯の位置

2-1 口縁部

2-2 口縁部以外

3 口縁部文様帯

3-1 文様要素

●「S」(ヨコ)字文

3-1-1 「S」(ヨコ)字文 及び「C」字文、「十字」文

3-1-1-1 通常の「S」(ヨコ)字文 及び「C」字文、「十字」文【Ⅸa期A類(1)】

3-1-1-2 「S」(ヨコ)字状文が大きく発達 「C」字文、十字文は「S](ヨコ)字文に取り込まれ連続的になる。【Ⅸb期A類(1)】

3-1-1-3 末端が小さく渦を巻く「S」字文を描く【Ⅹ期D類(4)】

●区画文

3-1-2 小突起状隆帯による区画【Ⅸa期B類(2)】

3-1-3 隆帯による区画文 区画は把手や突起と連続する【Ⅸb期B類(2)】

3-1-4 4単位の区画文【Ⅸb期D類(4)】

3-1-5 区画文【Ⅹ期B類(2)】

●区画文と「X」字文

3-1-5 小突起を中心に4単位区画と「X」字文【Ⅸa期C類(3)】

●区画文と「S](ヨコ)字状文

3-1-6 区画文と「S](ヨコ)字状文が絡み合っている【Ⅸb期C類(3)】

●渦巻文

3-1-7 隆帯による渦巻文

3-1-7-1 通常の「隆帯による渦巻文」【Ⅸa期D類(4)】

3-1-7-2 口縁部文様帯全体に隆帯の渦巻文」を持つ【Ⅸb期E類(5)】

3-1-7-3 口縁部と胴部に細隆線による渦巻文を描く【Ⅹ期F類(6)】

●区画文と渦巻文

3-1-8 細隆帯を貼付して区画文と渦巻文を描く

3-1-8-1 通常の「細隆帯を貼付して区画文と渦巻文を描く」【Ⅸa期E類(5)】

3-1-8-2 連結渦巻文と区画文【Ⅹ期A類(1)】

3-1-9 橋状把手により区画、渦巻文を配する【Ⅹ期C類(3)】

●クランク文

3-1-10 クランク文

3-1-10-1 縦長のクランク文【Ⅸa期F類(6)】

3-1-10-2 横位に連続しているクランク文【Ⅸb期G類(7)】

3-1-10-3 横長で連続的なクランク文【Ⅹ期H類(8)】

●曲線文

3-1-11 隆帯による曲線文と眼鏡状突起

3-1-11-1 通常の「隆帯による曲線文」【Ⅸa期G類(7)】【Ⅸb期F類(6)】

3-1-11-2 曲線が弱い「隆帯による曲線文」【Ⅹ期G類(9)】

●棒状沈線文

3-1-12 棒状沈線文【Ⅸa期H類(8)】【Ⅸb期H類(8)】【Ⅹ期I類(7)】

4 口唇部

4-1 通常口唇部

4-2 2重口唇部【Ⅸa期C類(3)】

5 頸部

5-1 頸部無文帯なし

5-2 頸部無文帯あり

5-2-1 通常の頸部無文帯

5-2-2 隆帯がくずれ頸部無文帯が広い【Ⅹ期E類(5)】

6 地文

6-1 撚糸文

6-2 縄文

7 分布域

7-1 西部

7-2 東部

…………………

2 埼玉編年と11土器の対応

埼玉編年土器細分類指標と11土器3Dモデル観察を対応させ、11土器がどのように埼玉編年の細分類に対応するのか検討しました。


埼玉編年(1982)1群土器細分類と観察土器事例の対応

この結果を画像で表現すると次のようになります。


加曽利博R2企画展展示加曽利EⅠ式土器と有吉北貝塚及び埼玉編年土器群分類との対応(仮案2)

3 感想

3-1 文様要素の指標は限られている

代表的文様要素は「S」字文、区画文、渦巻文、クランク文、曲線文、棒状沈線文であり、それらの組合わせにより加曽利EⅠ式土器の細分類のほとんどが決まることを知りました。

3-2 文様要素等の指標だけからでは時期別の対応が明確ではない

土器現物だけの情報では埼玉編年土器細分類の一つに特定できない場合が多いことが判りました。例えば棒状沈線文のある土器は【Ⅸa期H類(8)】【Ⅸb期H類(8)】【Ⅹ期I類(7)】のどれかに対応することになります。しかし、その土器の層位や共伴出土物から時期(Ⅸa期か、Ⅸb期か、Ⅹ期か)がわからなければ、文様の様子だけからでは、細分類を特定できません。

作業してはじめてこのような事情がわかりました。

このことから、埼玉編年の土器細分類プロセスは、最初に土器を時期で大分けして、その各時期毎に文様要素等の指標で細区分した分類です。

ですから、文様要素等の指標だけからでは時期別の対応が明確ではないものも含まれているということです。

土器細分類を時期とより正確に対応させるためには、さらに踏み込んだ新たな詳細指標による精細な分類が求められます。

2021年3月17日水曜日

埼玉編年のデータベース化による分析的学習 2

 縄文土器学習 561

2021.03.09記事「埼玉編年のデータベース化による分析的学習」の続きです。

上記記事でⅨ期・Ⅹ期の1群土器だけという極小範囲についてカードを利用して土器細分類を整理しました。その整理を立体的モデルにして、より理解学習と考察を深めるためのツール作成を目指し、その試作に着手しました。

次の図の立体モデルを作成しました。


埼玉編年(1982) Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式) 1群土器(キャリパー形土器)分類の理解

なお、この図は上記記事と時間軸を逆にしています。この図は古→上、新→下にしていて、古→奥、新→手前をイメージしています。

この2D資料を立体化すると次のようになります。

埼玉編年(1982)Ⅸa期・Ⅸb期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)1群土器(キャリパー形土器)分類カードの3D展開 素材1

このモデルの趣旨:埼玉編年(1982)土器分類を理解学習するための3Dツール作成用素材。


3Dモデルの動画

●感想

・素材1はまだ完全なる素材ですが、このような3Dモデル作成が自分の技術的レベルでなんら問題なくできることを確認できました。慣れれば2D資料作成に準じた時間で作成出来そうです。Photoshopから直接カードのWabefront(.obj)ファイル作成ができることが効率化の鍵です。

・webにおける画像は解像度が低くなり見にくくなりますが、3Dモデルではそうした画質低下の問題は生まれないので、使い勝手のよいツールになることを確認できました。

・Sketchfab画面内で、多数カード間を高速で移動して拡大縮小できるので、情報を3次元配置のなかでその関係等について思考を深めることができそうです。

・今後整飾を加え、本格的なモデルを構築します。


2021年3月9日火曜日

埼玉編年のデータベース化による分析的学習

 縄文土器学習 559

有吉北貝塚における加曽利E式期の土器分類は埼玉編年(1982)に基づいています。そこで埼玉編年(1982)加曽利EⅠ式部分(Ⅸ期・Ⅹ期)について、土器細分類記述と画像をFileMakerでデータベース化してカードにしました。その土器細分類カードを並べなおして、分析的に学習しました。紙報告書(のスキャン画像)をいくら詳しく理解しようと思っていも、複雑な対応関係を頭の中で理解することは困難で気力の限界を超えます。しかしデータベース化、カード化、カードの配置考察という手作業を含む分析学習によって加曽利EⅠ式の土器細分類の全貌を納得感をもって学習することができました。

この記事では1群土器(キャリパー形土器)の学習をメモします。

1 埼玉編年における土器群・類の分類概要

1-1 分類手順

Ⅸ期・Ⅹ期の土器群・類の分類は次のようなステップで行われています。

ア 最初に1~5群土器に分類する。

イ 次に各期ごとに群の中を類として分類する。

1-2 群の分類

ア 1群土器

加曽利EⅠ式の主体となるキャリパー形土器。口縁部文様帯に最も特徴を持つ。

イ 2群土器

加曽利EⅠ式段階に関東で成立し、変遷する土器。客体的存在であるが、加曽利EⅠ式土器群の構成において、常に一部を占めている。

ウ 3群土器

中部地方に主体を持つ曽利Ⅰ式、Ⅱ式に比定される土器、あるいは類似する土器。

エ 4群土器

前段階の勝坂式及び中峠式の系統を残す土器。

オ 5群土器

1~4群の浅鉢形土器に対して、浅鉢形を中心に小型土器等の一括。

1-3 1群土器の類の分類

Ⅸa期…A類、B類、C類、D類、E類、F類、G類、H類

Ⅸb期…A類、B類、C類、D類、E類、F類、G類、H類

Ⅹ期…A類、B類、C類、D類、E類、F類、G類、H類、I類

(A類、B類・・・には特徴を類推できる名称がつけられていないだけでなく、3つの期での対応がありません。)

2 FileMakerによるデータベース化、カード化


FileMakerによるデータベース 一覧表表現(部分)


FileMakerのよるカード画面(レコード画面) Ⅸa期A類


FileMakerのよるカード画面(レコード画面) Ⅹ期H類

3 カード配置による1群土器分類の理解


埼玉編年(1982) Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式) 1群土器(キャリパー形土器)分類の理解

(この資料は同じ情報を3Dモデルにすることを念頭していますので、下(つまり手前)が古く、上(つまり奥)が新しくなるように表現しています。通常の土器編年表と異なります。)

紙資料をいくら理解しようとしても3重4重に情報を変換して対応関係をみることは苦痛であるばかりでなく、事実上不可能でした。しかしデータベース化、カード化することにより加曽利EⅠ式キャリパー形土器(Ⅸ期・Ⅹ期の1群土器)の細分類の全体像を把握することができました。埼玉編年(1982)という資料がどのような思考でどのような結果を提示しているかということの理解が一応できたことは、それを知らないで通り過ぎるよりも、よほど素晴らしいことです。

4 学習メモ

大局的にみて荒川あたりを境に、関東西部と東部で特徴が違います。

S字文、渦巻文、区画文土器が西部を中心に分布していて、それらの土器地文は撚糸文が多くなっています。

クランク文、曲線文、棒状沈線文は東部を中心に分布していて、それらの土器地文は縄文が多くなっています。

口縁部文様はS字文を始め各文様ともにⅨa期よりもⅨb期で発達する(大きくなる、彫りが深くなる)傾向があるようです。しかしⅩ期になると区画文の中に様式化して取り込まれ、退化していくようです。

西部の土器地文である撚糸文はⅩ期になると減少し、縄文が増えます。

5 疑問・問題意識

ア 文様の優先順位

一つの土器にS字文、渦巻文、区画文、クランク文、曲線文、棒状沈線文の複数の要素が見られることは極普通です、逆に単一の要素だけということは事例としては少ないと思います。しかし、埼玉編年ではあたかも土器には主要な文様が1つだけあるのが一般的であり、それにより分類しているような記載になっています。おそらく複数文様が見られる場合、分類で使う優先順位(重みづけ)があると思いますが、それが判りません。

イ 文様のレベルの差

S字文、渦巻文、区画文、クランク文、曲線文と棒状沈線文は次元が異なる文様項目です。棒状沈線文は地文ですから、それと本来の文様を同じレベルで指標にすることは疑問が生まれます。

ウ 胴部文様など

胴部文様、器形、大きさなどの要素が埼玉編年土器細分類とどのような関係になるのか興味が湧きます。

6 感想

埼玉編年(1982)で検討された思考の一端をⅨ期・Ⅹ期で知ることができました。大労作であり、学習のしがいがある資料です。

その後40年で膨大な発掘情報が加わっています。千葉県分を含めた、それらの膨大情報を整理した新版関東編年資料ができることを期待します。

2021年3月7日日曜日

加曽利EⅠ式土器細分類の学習

 縄文土器学習 558

この記事は2021.03.05記事「加曽利博企画展展示加曽利EⅠ式土器と埼玉編年資料との対応」につづく記事です。

加曽利EⅠ式土器の細分類がどのような指標で行われているのか、その専門分野の様子を知るために埼玉編年資料と加曽利EⅠ式土器11器との対応を検討する学習をすることにします。埼玉編年で行われている詳細な土器分類を詳しく理解することが必要であると直観できたので、しばらく時間を集中投下して、微に入り細にわたる専門家思考を理解することにします。

専門家の土器分類に関する基本的思考方法を理解した上で、将来、観察記録3Dモデルを作成した土器の器形・大きさ・文様等を指標化して、統計的分析等による土器分類(の真似事)を楽しみ、遊ぶことにします。

縄文土器分類の超細部に立ち入らないと、縄文学習の質を高めることができないと直観されます。

1 「加曽利博R2企画展展示加曽利EⅠ式土器と有吉北貝塚及び埼玉編年土器群分類との対応」図の改善

2021.03.05記事における「加曽利博R2企画展展示加曽利EⅠ式土器と有吉北貝塚及び埼玉編年土器群分類との対応」図の対応線(赤線)がゴチャゴチャしていて判りずらいので、総集3Dモデルにおける土器順番を変更して判りやすくしました。また、埼玉編年の土器群分類を色分けして概要を記入しました。


加曽利博R2企画展展示加曽利EⅠ式土器と有吉北貝塚及び埼玉編年土器群分類との対応(仮案)

2 埼玉編年土器群・類の分類概要

2-1 分類手順

Ⅸ期・Ⅹ期の土器群・類の分類は次のようなステップで行われています。

ア 最初に1~5群土器に分類する。

イ 次に各期ごとに群の中を類として分類する。

2-2 群の分類

ア 1群土器

加曽利EⅠ式の主体となるキャリパー形土器。口縁部文様帯に最も特徴を持つ。

イ 2群土器

加曽利EⅠ式段階に関東で成立し、変遷する土器。客体的存在であるが、加曽利EⅠ式土器群の構成において、常に一部を占めている。

ウ 3群土器

中部地方に主体を持つ曽利Ⅰ式、Ⅱ式に比定される土器、あるいは類似する土器。

エ 4群土器

前段階の勝坂式及び中峠式の系統を残す土器。

オ 5群土器

1~4群の浅鉢形土器に対して、浅鉢形を中心に小型土器等の一括。

2-3 期別群別の類の分類と学習方法

次のような期別群別の類の分類が例示実測図対応で説明されています。


埼玉編年土器分類 期別・群別の類の数

全部で66ある類の分類をより具体的に理解し、観察11土器との関係を考察することが大切であると考えます。紙の報告書(のスキャン画像)を読みながら、観察11土器との関係を考察して、仮のものとして対応関係をつけましたが、納得感のある学習にはほど遠いものです。

急いで66類をFileMakerでカード化してその全体像を俯瞰できるように、あるいは分類上の問題点を感じられるようにすることにします。紙報告書を利用した限りでは、類の分類の指標がバラバラであり、具体土器がいろいろな類に当てはめることが出来るような素性であると、生半可ですが、問題意識を感じています。

3 感想

2群土器には呼称に使えるキーワードが見つからなかったので、「他系統影響土器」と仮称することにします。

2群土器という存在をはじめて知り、思い当たる節があります。Ⅹ期2群D類(13)とよく似た加曽利EⅠ式土器を平成30年度加曽利貝塚博物館企画展「あれもE これもE -加曽利E式土器(千葉市内編)-」で観察しました。


加曽利EⅠ式大把手小突起対向土器 No.3

有吉北貝塚出土


出土土器挿図

有吉北貝塚発掘調査報告書から引用

この土器が加曽利EⅠ式土器であるという分類がこれまで納得できませんでした。器形がキャリパー形でないし、口縁部に特段の文様がありません。しかし、加曽利EⅠ式土器のメインではなく、傍流の2群であると知ったので、納得できます。

2群土器が何故1群土器にずっとよりそって随伴するのか、その理由を考察すれば、社会の様子の特徴にせまることになりそうで、興味が深まります。

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並べ替えした総集モデル


並べ替えして総集モデル