ラベル 意匠充填系土器 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 意匠充填系土器 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2022年5月27日金曜日

3Dモデルによる土器観察 意匠充填系土器

 Observation of pottery by 3D model  Design filling type pottery


I have summarized the observations of design filling type pottery from February to May 2022. This observation utilizes a 3D model and a GigaMesh Software Framework deployment.


「2022年2月~5月の縄文土器学習記録」と銘打って今年2月以降の縄文土器学習の要点を記録としてまとめています。この記録は次のような目次を予定しています。

…………………

1 はじめに

2 これまでに開催された企画展「あれもE…」と学習の概要

3 令和3年度企画展「あれもE…」と学習活動

3-1 展示土器の3Dモデル作成と観察

3-1-1 観覧と写真撮影

3-1-2 3Dモデル作成とGigaMesh Software Framework展開

3-1-3 3Dモデルによる土器観察

1)意匠充填系土器

2)入組系横位連携弧線文土器

3)対向系横位連携弧線文土器 外

3-2 3Dモデル分析

3-3 興味を覚えたテーマ(講演会含む)

3-4 習得した3Dモデル関連技術

3-5 感想

4 今後の学習について

4-1 令和4年度企画展開催までの学習活動

4-2 令和4年度企画展にかかる学習活動

…………………

この記事では次の目次部分を掲載します。

…………………

3-1-3 3Dモデルによる土器観察

1)意匠充填系土器

…………………

……………………………………………………………………

3-1-3 3Dモデルによる土器観察

加曽利貝塚博物館令和3年度企画展展示土器18点及び常設展展示土器3点、優品展展示土器(千葉市埋蔵文化財調査センター)1点の合計22点について、3DモデルとGigaMesh Software Framework展開資料を活用して詳しく観察しました。

以下各土器の観察結果ポイントをメモします。なお、次の文様分類別を主、土器型式別を従とした便宜上の順番で記述します。

文様分類

1 意匠充填系土器

2 入組系横位連携弧線文土器

3 対向系横位連携弧線文土器 外

土器型式分類

1 加曽利EⅢ式土器

2 加曽利EⅣ式土器

3 加曽利EⅤ式土器

4 称名寺式土器

【文様分類について】

加曽利E式土器の文様分類は次の文献で詳しく解説されています。

加納実(1994):加曽利EⅢ・Ⅳ式土器の系統分析-配列・編年の前提作業として-、貝塚博物館紀要第21号(千葉市立加曽利貝塚博物館)

当面の加曽利E式土器学習では文様分類に関してこの文献の考え方(次図参照)を参考に進めています。


意匠充填系土器


横位連携弧線文土器

……………………………………………………………………

1)意匠充填系土器

1)-1 加曽利EⅢ式深鉢(No.26)(千葉市芳賀輪遺跡)


加曽利EⅢ式深鉢(No.26)(千葉市芳賀輪遺跡)

大きな渦巻が上段に、下段に細長い楕円が縄文で描かれます。渦巻は沈線で縁取られます。上段で渦巻のパターンに含まれない細長い逆三角形状の縄文施文域が存在しますが、それはこの土器の正面(などの特定位置)を示す意味のある文様だと想像します。(土器全体を観察できて、またおこげなどの様子を観察できれば、この仮説に関する資料が得られると考えます。)

1)-2 加曽利EⅢ式深鉢(千葉市加曽利貝塚)


加曽利EⅢ式深鉢(千葉市加曽利貝塚)

渦巻は波頂部に対応していて、上段だけではなく下段にまで続きます。渦巻は隆帯で縁取られています。

1)-3 加曽利EⅣ深鉢(No.35)(千葉市餅ヶ崎遺跡)


加曽利EⅣ深鉢(No.35)(千葉市餅ヶ崎遺跡)

波頂部に対応して上段に大きな楕円が描かれていて特徴的な図柄となっています。球抱文土器とも言われる文様で加曽利EⅣ期の特徴のようです。「加納実(1994):加曽利貝塚EⅢ・Ⅳ式土器の系統分析、貝塚博物館紀要21」では玉抱文土器について次のように記述しています。

「玉抱文土器群の成立は、弧線文が横位連携効果を有しており、球状意匠が充填されるものの、アクセント部の描出に乏しいことから、横位連携弧線文土器の影響を強く受けた意匠充填系土器群(紡錘状の円形意匠を有する土器群)であるとおもわれる。」

1)-4 加曽利EⅣ式・EⅤ式深鉢(No.28)(千葉市餅ヶ崎遺跡)


加曽利EⅣ式・EⅤ式深鉢(No.28)(千葉市餅ヶ崎遺跡)

玉抱の意匠充填系土器として把握できると考えます。加曽利EⅣ深鉢(No.35)(千葉市餅ヶ崎遺跡)の文様の下段を反転させた文様です。


No.35土器とNo.28土器の文様反転関係

なお、展示では次のような説明がされています。


展示説明

1)-5 加曽利EⅣ式・EⅤ式深鉢(No.29)(千葉市餅ヶ崎遺跡)


加曽利EⅣ式・EⅤ式深鉢(No.29)(千葉市餅ヶ崎遺跡)

玉抱の意匠充填系土器です。細長い楕円となった玉が波頂部と波底部に配置されています。

1)-6 加曽利EⅤ式・称名寺式深鉢(No.37)(千葉市餅ヶ崎遺跡)


加曽利EⅤ式・称名寺式深鉢(No.37)(千葉市餅ヶ崎遺跡)

波頂部に小さな紡錘が描かれているので、意匠充填系土器とも言えると考えました。この土器は全面縄文施文の上に多数の沈線を描いていて、土器づくり初心者が練習で沈線を描いた土器(練習台)と想像しました。


参考 展示資料

1)-7 称名寺Ⅰ式深鉢(No.3)(千葉市愛生遺跡)


称名寺Ⅰ式深鉢(No.3)(千葉市愛生遺跡)

中空の大きな紡錘が波頂部に対応して描かれていますが、意匠充填系土器の流れのデザインであると考えました。

1)-8 意匠充填系土器の一覧

意匠充填系土器の画像を土器型式別に配置すると次のようになります。


意匠充填系土器

意匠主要アクセントが渦巻から楕円(玉)に変化しているように感じます。


2022年5月21日土曜日

加曽利E式土器 意匠充填系土器

 Kasori E type pottery  Design filling type pottery


Of the 22 pottery observed, the transition of the design filling pottery was reviewed by arranging the 3D model front ortho-projection image and the pattern diagram developed by the GigaMesh Software Framework. It seems that the vortex shape of the main theme changes to a circular shape or a spindle shape.


加曽利貝塚博物館令和3年度企画展「あれもE…」展示土器のうち意匠充填系土器について、3Dモデル正面オルソ投影画像とGigaMesh Software Frameworkで展開して作成した文様図を並べてその変遷を概観しました。メインテーマの渦形が円形や紡錘形に変化するようです。

1 意匠充填系土器の集成


意匠充填系土器

各土器画像資料の左は3Dモデル正面オルソ投影画像、右はGigaMesh Software Frameworkで展開した図に縄文施文域を緑色に塗色した画像です。


参考 22土器の中での意匠充填系土器の位置

2 加曽利EⅢ式の意匠充填系土器

2-1 加曽利EⅢ式深鉢(No.26)(千葉市芳賀輪遺跡)


加曽利EⅢ式深鉢(No.26)(千葉市芳賀輪遺跡)

大きな渦巻が上段に、下段に細長い楕円が縄文で描かれます。上段で渦巻のパターンに含まれない細長い逆三角形状の縄文施文域が存在しますが、それはこの土器の正面(などの特定位置)を示す意味のある文様だと想像します。(土器全体を観察できて、またおこげなどの様子を観察できれば、この仮説に関する資料が得られると考えます。)

2-2 加曽利EⅢ式深鉢(千葉市加曽利貝塚)


加曽利EⅢ式深鉢(千葉市加曽利貝塚)

渦巻は波頂部に対応していて、上段だけではなく下段にまで続きます。

3 加曽利EⅣ式の意匠充填系土器


加曽利EⅣ深鉢(No.35)(千葉市餅ヶ崎遺跡)

波頂部に対応して上段に大きな楕円が描かれていて特徴的な図柄となっています。球抱文土器とも言われる文様で加曽利EⅣ期の特徴のようです。「加納実(1994):加曽利貝塚EⅢ・Ⅳ式土器の系統分析、貝塚博物館紀要21」では玉抱文土器について次のように記述しています。

「玉抱文土器群の成立は、弧線文が横位連携効果を有しており、球状意匠が充填されるものの、アクセント部の描出に乏しいことから、横位連携弧線文土器の影響を強く受けた意匠充填系土器群(紡錘状の円形意匠を有する土器群)であるとおもわれる。」

4 加曽利EⅤ式の意匠充填系土器

4-1 加曽利EⅣ式・EⅤ式深鉢(No.28)(千葉市餅ヶ崎遺跡)


加曽利EⅣ式・EⅤ式深鉢(No.28)(千葉市餅ヶ崎遺跡)

玉抱の意匠充填系土器として把握できると考えます。加曽利EⅣ深鉢(No.35)(千葉市餅ヶ崎遺跡)の文様の下段を反転させた文様です。


No.35土器とNo.28土器の文様反転関係

4-2 加曽利EⅣ式・EⅤ式深鉢(No.29)(千葉市餅ヶ崎遺跡)


加曽利EⅣ式・EⅤ式深鉢(No.29)(千葉市餅ヶ崎遺跡)

玉抱の意匠充填系土器です。細長い楕円となった玉が波頂部と波底部に配置されています。

4-3 加曽利EⅤ式・称名寺式深鉢(No.37)(千葉市餅ヶ崎遺跡)


加曽利EⅤ式・称名寺式深鉢(No.37)(千葉市餅ヶ崎遺跡)

波頂部に小さな紡錘が描かれているので、意匠充填系土器とも言えると考えました。この土器は全面縄文施文の上に多数の沈線を描いていて、土器づくり初心者が練習で沈線を描いた土器(練習台)と想像しました。


参考 展示資料

5 称名寺式の意匠充填系土器


称名寺Ⅰ式深鉢(No.3)(千葉市愛生遺跡)

中空の大きな紡錘が波頂部に対応して描かれていますが、意匠充填系土器の流れのデザインであると考えました。

6 感想

意匠充填系土器という観点で3Dモデル資料をみてみると、メインテーマとなるデザインが渦巻→円形→紡錘と変化しているようにみえます。今後観察資料を増やして、このような理解でよいか気長に検証していくことにします。


2020年3月22日日曜日

加曽利EⅢ式土器観察のふりかえり

縄文土器学習 382

現在、加曽利貝塚博物館E式土器企画展(終了)の展示土器について学習しています。この記事では2020.02.03記事「加曽利EⅢ式土器学習のポイント」からはじめた加曽利EⅢ式土器観察学習をふりかえり、とりまとめます。

1 観察土器の種類
加曽利貝塚博物館開催企画展「あれもE これもE ―加曽利E式土器(印旛地域編)―」(2019.11.16~2020.03.01)展示土器のうち、すでに観察した注口土器を除くEⅢ式深鉢形土器24点について観察記録3Dモデルを作成し、またGigaMesh Software Frameworkによる文様浮彫展開写真を作成して観察しました。
観察土器の主な種類はキャリパー形土器、意匠充填系土器、横位連携弧線文土器です。

観察した加曽利EⅢ式深鉢の種類
なお、器形や模様という土器型式分類とは別に、同じ「深鉢」と呼ばれる土器でも口唇部が肥大化してラッパ形をしていて、片口が付いている土器もあり、用途に応じた分類考察も重要であることを感じました。

2 意匠充填系土器と横位連携弧線文土器の出自
論文「加納実(1994):加曽利EⅢ・Ⅳ式土器の系統分析-配列・編年の前提作業として-、貝塚博物館紀要第21号(千葉市立加曽利貝塚博物館)」では意匠充填系土器と横位連携弧線文土器のそれぞれの出自について、いずれも連弧文土器とキャリパー形土器との接触により成立したと考察しています。

意匠充填系土器と連弧文土器
加納実(1994):加曽利EⅢ・Ⅳ式土器の系統分析-配列・編年の前提作業として-、貝塚博物館紀要第21号(千葉市立加曽利貝塚博物館)から引用

横位連携弧線文土器と連弧文土器
加納実(1994):加曽利EⅢ・Ⅳ式土器の系統分析-配列・編年の前提作業として-、貝塚博物館紀要第21号(千葉市立加曽利貝塚博物館)から引用

連弧文土器は加曽利EⅡ式期に房総でも盛行した土器です。

参考 中期後葉の土器編年案と連弧文土器の位置づけ
小林達雄編「総覧縄文土器」から引用

また、小林達雄編「総覧縄文土器」では連弧文土器について、「おそらくは曽利式土器が関東地方に波及していく中で、加曽利E式と曽利式に由来する要素が転写、複合されて生成したものと考えられる。」と考察しています。

以上の加納実考察と小林達雄編「総覧縄文土器」考察から、次のような状況を想像します。
1 山梨県付近に中心をもつ曽利式土器が関東地方に影響を及ぼした。
2 そのプロセスの中で多摩地方などを中心に連弧文土器が生まれ、加曽利EⅡ式期に房総にも伝わった。
3 加曽利EⅢ式期にキャリパー形土器が連弧文土器の影響を受けて、意匠充填系土器や横位連携弧線文土器が生まれた。(逆に表現すると、房総に伝わった連弧文土器がキャリパー形土器に吸収され、その過程で意匠充填系土器や横位連携弧線文土器が生まれた。)

加曽利貝塚博物館の加曽利E式土器に関するパンプレットでEⅢ式期だけいわゆるキャリパー形ではない土器(下図で赤点で囲む)ができてきますが、この土器は横位連携弧線文土器ということになると思います。

加曽利E式土器パンフレットに出てくる横位連携弧線文土器(赤点だ囲む)
加曽利貝塚博物館パンフレットから引用加筆

3 感想
曽利式土器そのもの及び連弧文土器が房総の遺跡で満遍なく一定の割合でみられることから、房総の人々は曽利式土器や連弧文土器にも「幸福をあやかった」のだと思います。
「幸福をあやかる」本尊は加曽利E式土器ですが、キリスト教徒でもない現代日本人がクリスマスを愛するように、房総縄文人は曽利式土器や連弧文土器を時々愛用したのだと思います。

2020年2月29日土曜日

把手のある意匠充填系土器

縄文土器学習 361

現在、加曽利貝塚博物館E式土器企画展の展示土器について学習しています。この記事では把手1つと波状口縁を持つ意匠充填系土器、加曽利EⅢ式深鉢(印西市馬込遺跡)企15を観察します。(企15はこのブログにおける整理番号です。)

1 加曽利EⅢ式深鉢(印西市馬込遺跡)企15 観察記録3Dモデル

加曽利EⅢ式深鉢(印西市馬込遺跡)企15 観察記録3Dモデル 
撮影場所:加曽利貝塚博物館 企画展「あれもE これもE ―加曽利E式土器(印旛地域編)―」 
撮影月日:2019.11.19 
整理番号:企15 
ガラス面越し撮影 
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 83 images

展示の状況

2 3Dモデル展開写真
GigaMesh Software Frameworkを使って3Dモデルから展開写真をつくりました。
ここで示す展開写真はテクスチャモデル(画像を貼り付けたモデル)展開写真とソリッドモデル(凹凸だけのモデル)展開写真をPhotoshopでオーバーレイして作成しました。単なる展開写真ではなく、立体性を付与した展開写真です。
隆帯をトレースするときなどでは、オーバーレイ方法の違いによって立体性強調場所が異なるので、幾つかの展開写真をつくり参考にします。

加曽利EⅢ式深鉢(印西市馬込遺跡)企15 展開写真 1

加曽利EⅢ式深鉢(印西市馬込遺跡)企15 展開写真 2

3 文様の分布
文様(隆帯)の分布は次の通りです。

加曽利EⅢ式深鉢(印西市馬込遺跡)企15 の文様(隆帯)の分布

4 観察及び感想
・上段に渦巻文、下段におそらく懸垂文が配置されていて、1本隆帯で意匠が充填されています。
・上段は渦巻文と副文として区画文があるように観察できますが、渦巻文と副文が繋がっているとこともあります。
・上段と下段は1本隆帯で分かれています。
・把手1つと口縁部突起3つの4単位の器形をしていますが、把手部分に対応する渦巻文は上下から2つ派生していて、個々だけ特別です。把手のある場所がこの土器に正面であると考えられます。
・口縁部形状は把手のある場所と対向の突起の場所では湾曲が異なります。把手のある場所のほうが口縁部の湾曲が強くなっています。胴本体の形状は円形に近い造形になっています。(2020.03.01追記 この記述は粗雑な観察であり、間違っているようです。下図をよく見ると、土器投影形は把手とその対向突起を結ぶ軸方向に長軸を持つ楕円になっています。土器作成に際して土器正面を最初から設定している可能性があり、土器形状がその思考(土器設計イメージ)に影響を受けている可能性があります。模様と形状からみた土器正面という概念について観察を重ねたいと思います。)

加曽利EⅢ式深鉢(印西市馬込遺跡)企15 土器の「上から」3Dモデル画像(オルソグラフィック画像)
・把手や波状口縁のある土器の割合は加曽利EⅡ式土器と比べて加曽利EⅢ式土器では格段に増えるのではないかと想定しています。逆に言えば加曽利EⅡ式土器の時代には前後と比べて、特別少なかったと考えます。波状口縁の有無・把手の有無・把手デザインの精緻化が社会の趨勢(発展と凋落)に関連していると仮説しています。その仮説を検証したいという気持ちが趣味活動推進源の一つになっています。

2020年2月28日金曜日

紡錘状の円形意匠を有する意匠充填系土器

縄文土器学習 360

現在、加曽利貝塚博物館E式土器企画展の展示土器について学習しています。この記事では紡錘状の円形意匠を有する意匠充填系土器として加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市吉見台遺跡)後5土器を観察します。(後5はこのブログにおける整理番号です。)

1 加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市吉見台遺跡)後5 観察記録3Dモデル

加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市吉見台遺跡)後5 観察記録3Dモデル
撮影場所:加曽利貝塚博物館 企画展「あれもE これもE ―加曽利E式土器(印旛地域編)―」後半展示
撮影月日:2020.01.21
整理番号:後5
ガラス面越し撮影
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 79 images

展示の状況

2 3Dモデル展開写真
GigaMesh Software Frameworkを使って3Dモデルから展開写真をつくりました。この土器は文様の分布が観察しにくいので調整の異なる4種の展開写真をつくり、比較しながら隆帯の正確な分布を把握しました。

加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市吉見台遺跡)後5 展開写真 1

加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市吉見台遺跡)後5 展開写真 2

加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市吉見台遺跡)後5 展開写真 3

加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市吉見台遺跡)後5 展開写真 4

3 文様の分布
文様(隆帯及び縄文)の分布は次の通りです。

加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市吉見台遺跡)後5の文様(隆帯及び縄文)の分布

4 観察及び感想
・紡錘状の円形意匠を有する意匠充填系土器として加納実先生論文に紹介されている土器と文様構成が瓜二つです。

加納実先生論文掲載図(紡錘状の円形意匠を有する意匠充填系土器)
加納実(1994):加曽利EⅢ・Ⅳ式土器の系統分析-配列・編年の前提作業として-、貝塚博物館紀要第21号(千葉市立加曽利貝塚博物館) から引用

・紡錘状の円形意匠は渦巻文から変化したもので、この土器がEⅢ式新期のものであることを示しています。
・下段の文様からは渦巻の要素は消失して懸垂文だけになっています。
・この土器を真上からみると土器がいびつであることがわかります。展開写真に表現されている口唇部突起3つのうち右側のもの付近が立面で平状になっています。もしかしたら、この部分が土器「正面」かもしれません。
・文様はいびつな土器に合わせて歪んでいます。

加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市吉見台遺跡)後5の「上から」3Dモデル写真(オルソグラフィック投影)

5 注
この土器(加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市吉見台遺跡)後5)は加曽利貝塚博物館主催の縄文時代研究講座「県内他地域からみた加曽利貝塚の様相-印旛地域との比較-」(講師 学芸員米倉貴之先生)で横位連携弧線文土器として紹介された土器です。
2019.12.15記事「縄文時代研究講座 米倉貴之先生講演の聴講

この土器(加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市吉見台遺跡)後5)が横位連携弧線文土器として紹介されている様子
この情報に基づき、このブログでは次の記事でこの土器(加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市吉見台遺跡)後5)を横位連携弧線文土器の代表例として紹介しました。
2020.02.23記事「加曽利EⅢ式土器学習のポイント
しかし、この土器をよく観察すると、上記のように本質は意匠充填系土器であると言わざるを得ません。
縄文時代研究講座資料に土器写真の入れ間違い(錯誤)等があったものであると考えますので、米倉先生に確認をとったうえで2020.02.23記事を訂正する予定です。
 

2020年2月27日木曜日

我孫子市湖北郷土資料室の意匠充填系土器

縄文土器学習 359

現在、加曽利貝塚博物館E式土器企画展の展示土器について学習していますが、この記事では関連参考として、以前我孫子市湖北郷土資料室で観覧した意匠充填系土器を観察します。

1 加曽利EⅢ式深鉢形土器 鹿島前遺跡 観察記録3Dモデル

加曽利EⅢ式深鉢形土器 鹿島前遺跡 観察記録3Dモデル
撮影場所:我孫子市湖北郷土資料室
撮影月日:2019.08.14
ガラスショーケース越し撮影のため難点多
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.506 processing 24 images

展示の状況
4面ガラス張のショーケースに天井の蛍光灯が激しく反射していました。

2 3Dモデル展開写真
GigaMesh Software Frameworkを使って3Dモデルから展開写真を作成しました。

加曽利EⅢ式深鉢形土器 鹿島前遺跡 展開写真 1

加曽利EⅢ式深鉢形土器 鹿島前遺跡 展開写真 2
隆帯の連続性等をより正確に観察するために色合いは無視して、1と異なる調整により作成したものです。

3 観察と感想
・上段と下段に2本隆帯による渦巻文がつなげられて配置していますが、復元されていない最下段部にも隆帯による区画文(?)があるようで、その一部がみえます。
・個別渦巻文の変形度合いが強い土器であるという印象を受けます。下段中央の渦巻文は渦巻になっていないといってもよいほどです。
・上段渦巻文は隆帯でそれを描いた後、最後に隣の渦巻文と1カ所で繋いでいる様子が見えますが、下段の渦巻文と区画文は連続して充填されています。意匠充填の仕方(手順)が上下で少し違うようです。
・渦巻の先端が少し膨らんでいます。つる草の先端が丸まって伸びている様子をイメージしているようです。膨らんで表現しているものは、さらに小さくクルクル渦をまいている様子であると想像します。
・意匠充填系土器といってもその文様は土器1つ1つで違い、見ていて飽きが来ません。

2020年2月26日水曜日

意匠充填系土器 その3

縄文土器学習 357


加曽利貝塚博物館E式土器企画展の展示土器について学習しています。
この記事では意匠充填系土器として加曽利EⅢ式深鉢(成田市長田雉子ヶ原遺跡)企25土器を観察します。(企25はこのブログの整理番号)

1 加曽利EⅢ式深鉢(成田市長田雉子ヶ原遺跡)企25 観察記録3Dモデル

加曽利EⅢ式深鉢(成田市長田雉子ヶ原遺跡)企25 観察記録3Dモデル
撮影場所:加曽利貝塚博物館 企画展「あれもE これもE ―加曽利E式土器(印旛地域編)―」
撮影月日:2019.11.19
整理番号:企25
ガラス面越し撮影
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 39 images

展示の状況
次の理由からこの土器展示は企画展の中では最も劣悪な観覧環境(撮影環境)に置かれています。
・ショーケースの一番奥の角に置かれ、手前の土器に視線がさえぎられ撮影視野が狭い。つまり死角が多い。
・土器固定用透明アクリル環が照明遮断・反射・影などの効果を生み、土器中段の観察が希薄になる。
・土器固定用底面円形アクリル板が赤色反射光を土器下部に投射し、土器下部の観察が希薄になる。
・土器固定具の透明足が視界を遮る。
・ガラス面越しであり室内反射光の影響がある。
このような劣悪な環境の下でも多数写真を撮影すれば個人学習用とはいえ3Dモデルができることは素晴らしいことです。

2 3Dモデル展開写真
GigaMesh Software Frameworkを使って3Dモデルから展開写真を作成しました。

加曽利EⅢ式深鉢(成田市長田雉子ヶ原遺跡)企25 展開写真 1

加曽利EⅢ式深鉢(成田市長田雉子ヶ原遺跡)企25 展開写真 2
隆帯連続性等をより正確に観察するために色合いは無視して、1と異なる調整により作成したものです。

3 観察と感想
・上段、下段ともに渦巻文が繋がって配置されています。
・渦巻文は1本の隆帯で描かれ、隆帯の両側には幅が狭いナゾリが観察できます。

上段渦巻文が繋がっている様子と、隆帯とその両側のナゾリ
・上段渦巻文は8、下段渦巻文は4配置されている様子です。上段2に対して下段1という渦巻文の位置関係配列がみられます。
・渦巻文とその間を埋める副文様を抽出するために隆帯をトレースしてみました。

隆帯のトレース
・上段は口唇部の隆帯によって渦巻が閉じていて、それによって充填され、副文様はありません。
・上段と下段の間には「地」(無紋)が広がり、隆帯はありません。
・下段は渦巻文と渦巻文の間が副文様(中央部が狭い長楕円文)で充填されています。

・意匠充填系土器という名称とその実態をこの企画展で初めて知りましたが、文様のあり様を観察すると興味が強く湧いてきます。
・展示されている土器は「露天」展示土器1点を除いて全てショーケースに入っていますから、表面積の半分ほどしか観察できません。すべての土器が模様や器形について対向対称とは限りませんから、残念です。ある特定の正面がある土器もあり得ます。
・この企画展はプロ、セミプロ向け企画展であり、スルメのようです。一般素人から見ると難解です。口に入れただけでは固いだけです。噛めば(意匠充填系土器の意味などを学習すれば)味がでます(興味が深まります)。
・この企画展は、一言でいえば意匠充填系土器とか横位連携弧線文土器などの展示会ですから、それらのわかりやすい説明がパネルであればよかったと思います。