2020年6月7日日曜日

縄文時代人口データ原典の考察

縄文社会消長分析学習 25

1 縄文時代人口データ原典
2020.06.04記事「縄文時代人口について問題意識をもつ」で、山田康弘著「縄文時代の歴史」(2019、講談社現代新書)で引用されている縄文時代人口データの原典(小山修三・杉藤重信「縄文人口シミュレーション」(1984、国立民族学博物館研究報告9-1))に幾つかの感想を持ちました。この原典は人口学等の図書でも一般的に使われ、社会で広くオーソライズされているようです。山田康弘著「縄文時代の歴史」でもこの原典の数値を利用して縄文時代の時期的、地方的変動を説明しいます。そのうえで、「小山の研究以降、20年以上(※本当は36年)が経過して遺跡数が増加している点を勘案してもこの大まかな傾向は変わらない。」と記述しています。

先史時代の人口と人口密度
小山修三・杉藤重信「縄文人口シミュレーション」(1984、国立民族学博物館研究報告9-1)から引用

先史時代の人口と人口密度の図化
原典データが示す縄文時代人口の期別変化、地方別分布のおおまかな様子は専門家からみて首肯できるデータであるということです。そうした人口時代観、大局観は間違いないと思います。

2 原典データは果たして正確か?
2-1 原典データの人口算出プロセス
原典データは大略次のようなプロセスで人口を算出しています。

ア 日本でもっともふるく、かつ比較的信頼性のたかい人口データである沢田吾一(1927)の奈良時代人口(国別租税高による推算)を基準とする。
イ 沢田データに時間的に近い土師期(古墳、奈良、平安)遺跡数をもとめる。
ウ データのそろう関東地方の遺跡当たり基準価Vを求める 
V=P/T 遺跡当たり基準価(V)=土師期の人口(P)/遺跡総数(T)
V=943000/5549≒170
エ 縄文各期の人口は例えば 縄文中期人口=縄文中期制限定数(C)×縄文中期遺跡数×V でもとめる
期別制限定数は結果蓋然性が高くなるような方法により早期1/20、前期1/7、中期1/7、後期1/7、晩期1/7、弥生1/3を設定する。(Shuzo Koyama 1979)

2-2 原典で使われた素データ
原典で使われた素データは次のとおりです。

素データ(Shuzo Koyama 1979から引用)

この素データで扱っている遺跡数は縄文全期トータルで27996、土師期トータルで11803です。

2-3 現在公表されている遺跡数
現在公表されている遺跡数情報の例として、つぎのデータをあげることができます。


文化庁資料「参考資料:平成24年度 周知の埋蔵文化財包蔵地数
この資料によれば縄文全期遺跡数(北海道と沖縄除く)が83458、土師期遺跡数(北海道と沖縄除く、古墳+古代)が102133となります。素データのそれぞれ2.98倍、8.65倍となります。
土師期遺跡数が8.65倍になるのは原典と文化庁集計で何かの集計項目上の齟齬があるものと推察します。(文化庁集計には「古墳」もふくまれているものと推測します。)
しかし、縄文全期遺跡数は原典が作られて以降それだけ遺跡数が増えたことは確実です。
原典データよりも現在の遺跡数は3倍になっているのです。

3 感想
3-1 率直な感想
いくら「小山の研究以降、20年以上(※本当は36年)が経過して遺跡数が増加している点を勘案してもこの大まかな傾向は変わらない。」であるとしても、遺跡数が3倍になっているのですから、その遺跡数で再計算して、確かめておく必要があります。
遺跡数3倍で再計算しても前と同じような結果であれば、それで原典が素晴らしいことが確認できます。結果が違えば、正確な情報を得ることができます。

おそらく考古学界として発掘調査にほとんどのエネルギーが費やされ、全国レベルの遺跡数調査などは36年間ほとんどなされていないのだと思います。

因みに原典素データの千葉県分の縄文遺跡トータル数は903となっています。しかし2018年千葉県教育委員会資料では6680となっています。なんと7.4倍近くに増えています。千葉県の縄文遺跡が7.4倍も増えているのですから、いくら「遺跡数が増加している点を勘案してもこの大まかな傾向は変わらない。」としても、縄文時代人口データは早々に更改していただき正確性、詳細性を担保してもらいたいものです。

3-2 技術的感想
・縄文時代人口を奈良時代人口から「引っ張ってくる」のではなく、遺跡数・住居数・住居面積等からの積み上げ方式で計算することの方が重要であると考えます。奈良時代の人口-遺跡関係は定住が不完全な縄文時代の人口-遺跡関係と大いに異なると考えます。縄文時代の定住化の様相を踏まえて、縄文内部情報だけから人口推察することが重要であり、本筋であると考えます。
・現在の土地面積ではなく、その当時の土地面積で人口推測することが原則的な思考であると考えます。失われた遺跡(海底に水没した遺跡、沖積層に覆われた遺跡など)の推測は困難ですが、わからないことは「無いことにする」態度は格好のよいものではありません。
・詳しい情報のある狭い地域での遺跡数・住居数・住居面積・定住化の様相等を勘案して人口数推移をモデル的に検討し、そのモデル検討成果を広域地域に「のばす」方法もありうると考えます。

0 件のコメント:

コメントを投稿