2020年6月19日金曜日

円錐形土偶の乳房間縦沈線の意義

縄文土器学習 409

加曽利貝塚博物館の新ショーケースに展示されている円錐形土偶について観察記録3Dモデルを作成観察し、めずらしい乳房間縦沈線の意義について思考しました。

1 縄文後期初頭?円錐形土偶(千葉市加曽利貝塚) 観察記録3Dモデル

縄文後期初頭?円錐形土偶(千葉市加曽利貝塚) 観察記録3Dモデル
加曽利貝塚北貝塚1-1区Dトレンチ出土
撮影場所:加曽利貝塚博物館
撮影月日:2020.06.17
ガラス面越し撮影
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.530 processing 38 images

展示の様子

パネル説明

動画

2 乳房間縦沈線の意義
乳房間縦沈線の意義について次の項目を思いつきましたのでメモします。
・乳房強調のための造形状の措置
・左右から構成される人体構造の強調

ア 乳房強調のための造形状の措置
胸の谷間を深く削ることによって乳房の豊さを強調したと考えることができます。
次の写真上の中・右2事例は乳房強調のための縦沈線であるように見えます。

土偶(中川村 上ノ原遺跡)
「伊那谷の土偶」(平成16年、飯田市上郷考古博物館)から引用

イ 左右から構成される人体構造の強調
次の円錐形土偶はへそから首まで縦強調線が通ります。

大型円錐形土偶「子宝のラヴィ」
「特別企画 土偶展」(2019、長野県立歴史館)から引用
へそから乳房までの縦線は妊娠正中線と考えることができますが、乳房から首まで続く全部を妊娠正中線ととらえることはできません。

次の円錐形土偶もへそあるいは下腹から首まで縦沈線あるいは縦隆起線が貫きます。

円錐形土偶
「特別企画 土偶展」(2019、長野県立歴史館)から引用

これらの縦線を妊娠正中線と単純にとらえることはできません。

次の土偶はなんと腹から首を通り越して頭まで縦沈線が貫きます。

西の土偶
「縄文土偶ガイドブック」(2014、三上哲也)から引用

これらの事例から妊娠正中線を基本としつつも人体というものが左右から構成されているという基本構造認識が縄文人に存在していたと考えます。その人体認識のもとに、円錐形という人体とはかけ離れた造形に人体認識を投影するためにわざと縦線を首から下に入れたのだと考えます。
円錐形という形状が妊娠を前提とする形状であるため、展示土偶はそれが人体であるという表現に主眼を置き、妊娠正中線部分は省略したのだと考えます。そのため乳房から首の部分までに沈線が刻まれたと考えます。

ウ 結論
乳房間縦沈線は次の2つの効果を狙ったものと考えます。
・乳房の強調を狙った造形。
・円錐形に人体構造を投影する縦線造形。(ただし、下腹から乳房までの妊娠正中線部分は省略)

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