2020年8月7日金曜日

ヒスイ製勾玉の用途・使い方

 縄文石器学習 26

「ヒスイ製勾玉(千葉市加曽利貝塚) 観察記録3Dモデル」の画像を繰り返しみていると、新たに気が付いた事柄がありますので、メモします。

1 古墳時代勾玉イメージと加曽利貝塚出土縄文時代勾玉との違い

古墳時代勾玉のイメージ 広辞苑から引用

自分がいままで持っている勾玉イメージは古墳時代のもので、表面はつるつるしていて、磨かれた曲面からなる整った形状です。

ところが、加曽利貝塚出土ヒスイ製勾玉は頭部に模様が刻まれているだけでなく、全体に小さな孔や溝が沢山あり、「美しく磨かれた装身具」としては強い違和感を覚えます。その違和感を梃にしてこの勾玉の用途と使い方について思考してみました。

2 ヒスイ製勾玉に観察される多様な彫刻

ヒスイ製勾玉(千葉市加曽利貝塚)に観察される多様な彫刻

ヒスイ製勾玉(千葉市加曽利貝塚)には次の3種の彫刻がなされています。

ア 頭部にみられる段刻み部

凸部と凹部を3回繰り返し配置して段刻みを彫刻しています。

イ 浅いえぐり部

段刻み部とは反対の頭部が浅くえぐられています。

ウ 多数の小孔・小溝

勾玉全体に多数の小孔・小溝が刻まれています。勾玉という製品が出来上がった後、これらの小孔・小溝が作られたことは確実です。小孔・小溝にはデザイン上の意味が見出し難く感じます。一度製品としてつくられた勾玉をデザイン上の観点から刻みなおしたとは感じられません。しかし、小孔・小溝は確かに刻まれています。

3 彫刻の様子から仮説するヒスイ製勾玉の用途・使い方

ア 仮説 段刻み部と浅いえぐり部は手で持つときの機能である

右手親指を浅いえぐり部に置き、人差し指をコの字にして段刻み部を押さえれば、勾玉をしっかりと握ることができます。

浅いえぐり部と段刻み部は勾玉を握るための機能を担った彫刻であると考えます。

このように勾玉を握ると、尾の部分が握った人の前方に突き出すようになります。もし相手がいれば、尾は相手に向きます。

イ 仮説 多数の小孔・小溝はヒスイ石から粉末や微細なかけらを削り取った跡である

多数の小孔・小溝は何らかの方法で製品としてのヒスイ勾玉から粉末や微細なかけらを削り取った跡であると仮説します。このヒスイ製勾玉を使うたびに極少量の粉末やかけらを削りとり、使ったものと仮説します。もしこの仮説が正しければ、見えている部分だけでも数十回以上の勾玉利用(削り取り)があり、展示背面も観察すれば100回以上の勾玉利用が想定できます。

ウ 仮説 ヒスイ製勾玉は医療道具であり、薬である

ウ-1 使い方

ヒスイ製勾玉を手で握って曲がった尾の部分で患部邪気をひっかけて取り出すようなイメージ的動作をするとか、尾を患部に当ててハンドパワー的な効果を狙うとかの活動が行われたと想像します。ヒスイ製勾玉という医療道具(ハード)を使いこなすための病気別快癒呪文(ソフト)も発達していたに違いありません。

ウ-2 薬としてのヒスイ製勾玉

ヒスイ製勾玉を使った呪術的医療活動の最後に、勾玉の一部を削り取り、粉末やかけらを患者に食べさせた(投薬した)と想像します。ヒスイ粉末は特効的効果があったものと想像します。

このヒスイ製勾玉が濃い緑色をしていて特段に上等品であることから、最初から医療道具兼薬として加曽利貝塚に届いたものであると想像します。たまたまこの製品が加曽利貝塚に届いたのではなく、加曽利貝塚集落が中部高地経由で糸魚川産地に特別注文し(事前に多量の魚介製品やイボキサゴ製固形調味料を中部高地に届け)、その特注に対応する配達があったものと考えます。中部高地に加曽利貝塚とヒスイ製品原産地の交易を介在するセンター機能が存在していたと仮想します。

参考 玉を食べる習慣

「古く玉を食べる習慣もあり,《周礼〘しゆらい〙》王府職に,王が斎〘ものいみ〙の儀式にあたって玉を食べる記事が見えるし,《楚辞》にも玉を食餌とする辞句が散見する。のちに神仙家の間では,玉を粒や粉にして水薬,丸薬,粘薬とした〈玉漿〘ぎよくしよう〙〉〈玉屑〘ぎよくせつ〙〉〈玉膏〘ぎよくこう〙〉などの仙薬が服用されたらしい。この食玉の風習も玉の呪力を体内にとりこみ止めるという呪術に由来し,その後に長寿延命を保つ法として受け継がれたと見られる。また,死者の口に含ませる〈含玉〉や手に握らせる〈握〉など副葬の玉器〈葬玉〉,玉片を金糸銀糸で綴って死者に着せた〈金縷〘きんる〙玉衣〉〈銀縷玉衣〉なども,もとはやはり玉に生成力,再生力をみとめ死者の復活を願ったのが起源であろう。葬玉の風習は六朝以降廃れるが,南中国の一部の地方では近年まで死者の口に翡翠〘ひすい〙(硬玉)をはませていた。(鈴木 健之)」平凡社 改訂新版 世界大百科事典』 日立ソリューションズから引用


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