2020年8月23日日曜日

アリソガイ実験学習の開始

 縄文貝製品学習 6

アリソガイ実験学習をすることになりました。この学習が進むと最初は自明であった経緯、意義、目的、計画等をいつのまにか失念したり、勘違いしてしまう高齢者リスクがありますので、フレッシュな気持ちの最初にメモしておきます。

1 アリソガイが学習テーマとして浮上した瞬間

2020.07.10記事「土偶祭祀基本構造について(学習仮説)」で、土偶祭祀に関する学習仮説を設定しました。その中で、加曽利E式期の千葉・東京湾岸には土偶祭祀が無いのですが、それに対応する海神に対する豊漁祈願、増殖祈願があったに違いないと想像し、その祭祀道具の一つがアリソガイであると空想しました。

ブログ記事におけるアリソガイ記述

2 専門家に問い合わせる

アリソガイが祭祀と関係あるかどうか自分の想像や空想を確かめておく必要がありますから、千葉県貝塚研究の最先端にいらっしゃる千葉市埋蔵文化財調査センター所長西野雅人先生に、アリソガイ実見に関する情報や先生のご意見をおうかがいしました。そうしたところ西野雅人先生ご自身がアリソガイ用途に関する詳しい研究を進めていて、その詳しい情報を提供していただきました。また実験的な手法を含めて学習(研究)展開を薦めていただきました。大変ありがたいことです。またとない機会でもありアリソガイを軸に縄文社会のあれこれの学習を深めることにしました。

西野雅人先生からアリソガイ現物(現生貝)も借用させていただき、机の上のアリソガイを眺めながら、いざとなれば実験的作業も行える学習環境が整いました。

西野雅人先生に感謝申し上げます。

アリソガイ(現生貝)とハマグリ(縄文出土貝) 普通写真

アリソガイ(現生貝)とハマグリ(縄文出土貝) 特殊モード写真

3 アリソガイに関するこれまでの研究

千葉市有吉北貝塚発掘調査報告書以降の研究としてつぎの2つの研究があります。

ア 西野雅人(2002):縄文時代中・後期のヘラ状貝製品について、研究連絡誌62、千葉県文化財センター

イ 西野雅人(2002):縄文時代中・後期のヘラ状貝製品(2)、往還する考古学、近江貝塚研究会

これらの研究からアリソガイ及びハマグリ等のヘラ状貝製品について多様な情報が明らかになっています。アリソガイの入手及び使い方に関しては次の事柄が明らかになっています。

・アリソガイは東京湾奥では入手できない「搬入貝類」である。。

・九十九里の猟場に出かけた集落メンバーが九十九里浜打ち上げ貝を拾い持ち込んだ可能性が高い。

・写真(Aアリソガイ)のように持ち左右に擦った使い方が貝表面顕微鏡観察から判明している。

アリソガイの使い方 左がアリソガイ

西野雅人先生提供写真

4 アリソガイ実験研究

既往のアリソガイ研究ではアリソガイの具体的用途が不明です。そこで具体的用途を特定するために参考となる情報を実験的方法で得ることにします。

実験はアリソガイ用途が「皮なめし」に関連しているという作業仮説に基づいて行います。

実験研究の項目イメージ

ア 基礎調査

・アリソガイ製ヘラ状貝製品や漆喰等に関する出土情報収集整理

・皮なめし関連道具や皮革製品に関する出土情報収集整理

・原始・古代における皮なめし技術・皮革製品製造技術に関する資料収集整理

イ 皮なめし・皮革製品専門家ヒアリング

ウ 実験計画

・実験A(アリソガイ、漆喰・焼貝を使った皮の脱毛・柔軟化実験)

・実験B(自然産物等を使った脱毛・柔軟化実験)

エ 実験実施

オ 実験結果の総合分析

カ 革製品製造実験

・縄文時代出土物から得られる情報に基づいて革製品(例 革製サンダル)を作成し、使用感等を確かめる。

キ とりまとめ

5 学習の発展

ア 土偶祭祀とアリソガイ

・アリソガイが直接的な意味で祭祀道具であった可能性はないようです。

・土偶祭祀に対抗する独自祭祀が中期千葉・東京(湾岸)に存在したという対応関係はないようです。(土偶を破壊して祭祀を完結する)土偶祭祀は中期中部高地に突然現れ、まるで新興宗教のように全国に波及したと考えます。

イ アリソガイ出土の前後

・アリソガイが果たした機能に代替するモノ(道具・材料)がアリソガイ出土前後の時期にも存在していたと考えます。(縄文中期:アリソガイ→縄文後期:漆喰?焼貝?)

ウ 皮なめし方法

・中期から後期にかけて、搔器の変遷や出土量から皮なめしに関してどのような研究がなされているのか学習を深めることにします。

エ 皮革製品の種類

・中期から後期の時期にどのような皮革製品が作られたのか、既存研究を学習することにします。革製サンダルは出土サンダル状土製品から確実に作られたと考えます。もし太鼓が作られていたとすると、アリソガイが間接的に祭祀に関わることになるかもしれません。

6 感想

実験的研究が子どものお遊び程度で終わるのか、考古事象考察の参考になる意味のあるデータが得られるのか、実行してみなければわかりません。

最初から意義の大きい活動になるとは限りませんが、活動チャレンジから大いに刺激を受けることができ、縄文社会を深く認識するうえで有益であると自ら期待します。

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