2020年1月26日日曜日

加曽利EⅠ式土器観察 その2

縄文土器学習 322

加曽利貝塚博物館企画展「あれもE これもE -加曽利E式土器(千葉市内編)-」(平成30年度)と「同(印旛地域編)」(令和元年度 開催中)の展示土器(深鉢等)74点を全部同じ視点で観察しています。この記事は加曽利EⅠ式土器4点を観察します。

5 H30年度加曽利E式企画展(千葉市内編) No.5加曽利EⅠ式深鉢(甕被葬土器)(有吉南貝塚)

No.5加曽利EⅠ式深鉢(甕被葬土器)(有吉南貝塚)

参考 甕被葬人骨 「千葉県の歴史 資料編 考古1(旧石器・縄文時代)」から引用

器形観察
・キャリパー形です。
・胴部ふくらみはほとんどありません。
・口縁部の4単位立体的渦巻文が把手となっています。
・把手を除くと口縁部は平です。
段構成観察
・太い隆起線で口縁部、頸部、胴部が区分される3段構成となっています。
文様観察
・口縁部には把手でもある4単位渦巻文が配置されています。
・頸部には2重隆起線によるクランク区画文が配置されています。
・胴部には沈線で直線文、細長いU字・逆U字組文、蛇行文が垂下しています。
感想
・キャリパー形で胴部ふくらみがほとんど無い器形、3段構成、懸垂文(胴部縦方向沈線)の3つの要素から明確に加曽利EⅠ式土器として判別されている土器であると考えます。
・この土器を再度観察できる機会があれば、渦巻文、クランク区画文、懸垂文の相互位置関係がどのようになってるのか詳しく観察したいと希望しています。その位置配置に何か意味があるのか、「適当」に配置されたのか考察する価値はあると思います。
・加曽利E式土器細分とは別立興味ですが、甕被葬がニュートラル(特段意味がない一般葬)なのか、プラス(リーダーの特別葬など)なのか、マイナス(顔や頭部に異常が現れる病人葬)なのか、以前から興味があります。近世ではマイナスです。

6 R元年度加曽利E式企画展(印旛地域編) 企14加曽利EⅠ式深鉢(印西市松崎Ⅲ遺跡)

企14加曽利EⅠ式深鉢(印西市松崎Ⅲ遺跡)

3Dモデル オルソグラフィック投影
https://skfb.ly/6PXOK

器形観察
・口縁部が椀状に広がりますが内湾していないのでキャリパー形ではありません。
・胴部は少しふくらみます。
・口唇部が水平ではなく、外に傾斜を持ちます。
・口縁部は平です。
段構成観察
・頸部にあたる部分に太い隆起線3本が巡り口縁部と胴部を2分します。
・明白な3段構成であると認識します。
文様観察
・口縁部は無紋です。
・頸部は太い隆起線3本が巡り、突起状装飾物が付きます。
・胴部は2本の直線沈線、2本の蛇行沈線、1本の蛇行沈線が垂下します。
感想
・キャリパー形ではありませんが、胴部が少し膨らんでいること、無文帯を有すること、懸垂文があることなどから加曽利EⅠ式土器として判別されているものと考えます。決め手は懸垂文であると考えます。

7 R元年度加曽利E式企画展(印旛地域編) 企36加曽利EⅠ式深鉢(酒々井町墨木戸遺跡)

企36加曽利EⅠ式深鉢(酒々井町墨木戸遺跡)

3Dモデル オルソグラフィック投影
https://skfb.ly/6PXOX

器形観察
・口縁部が内傾しキャリパー形に近づいています。
・それぞれ円環を伴う大小把手2つが対向して付いています。
・把手を除くと口縁部は平です。
・胴部が少し膨らんでいます。
・土器内面が激しく受け口になっています。
段構成観察
・刺突文を伴う太い隆線で口縁部と頸部(胴部)が区分された2段構成になっています。
文様観察
・文様は口縁部に集約表現されています。口縁部には縦線が引かれ、口縁部と口唇部は交互刺突文で画されます。口縁部には2つの把手のほか隆起線で渦巻様の立体装飾が配置されています。
・頸部を含む胴部全体に縄文が施されていて、そこに沈線などはありません。
感想
・キャリパー形に近く、文様が口縁部に集約されているという特徴がありますが、懸垂文はありません。加曽利EⅠ式土器として専門家が判別している例として観察しておきます。

8 R元年度加曽利E式企画展(印旛地域編) 企26加曽利EⅠ式深鉢(成田市久井崎Ⅱ遺跡)

企26加曽利EⅠ式深鉢(成田市久井崎Ⅱ遺跡)

3Dモデル オルソグラフィック投影
https://skfb.ly/6PJSw

器形観察
・「キャリパー形」という言葉に定義があるのかどうかまだ知りませんが、「口唇部径が最大径と同じか小さい」という要素をその定義に含むものならば、この土器はキャリパー形になります。
・胴部中央に膨らみがあります。
・胴部中央の膨らみの径と比べて口唇部の径が大幅に大きくなっています。
・口唇部は平です。
段構成観察
・口縁部と胴部(頸部)の間が太い隆起線で画されている2段構成となっています。
文様観察
・口縁部上部に太い溝が回り、口唇部が独立しています。
・口縁部は隆起線で矩形状に囲まれた区画文と隆起線による渦巻文から成り立っているように観察できます。区画文内部には縄文が施されています。
・胴部は3本の平行する沈線垂下による懸垂文となっています。
感想
・キャリパー形であること、胴部中央が膨らんでいること、口縁部に渦巻文と区画文を伴うこと、胴部に沈線による懸垂文があることから、加曽利EⅠ式土器であると判別された土器であると考えます。
・高さに比べて口縁部が大きく開いた土器であり、どのような機能が期待されたのか興味が湧きます。(開口部が広いということは煮物に対して周りから手を出しやすいこと意味していると考えます。)

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参考 加曽利E式土器観察の視点

加曽利貝塚博物館の加曽利E式土器細分基準

加曽利E式土器の移り変わり

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