縄文土器学習 391
このブログでは現在加曽利貝塚博物館常設展に展示されている加曽利B3式異形台付土器(千葉市加曽利貝塚)2点の観察と考察を行っています。
この記事では異形台付土器を計測するとともにAB2点を比較し考察します。
1 加曽利B3式異形台付土器(千葉市加曽利貝塚)2点の計測
3DF Zephyr Liteにおける3Dモデル作成時にスケーリング(実寸法付与)し、GigaMesh Software Frameworkで器形に関する諸指標を計測しました。計測はユークリッド距離ではなく、オルソ画像の平面投影図上で行いました。
GigaMesh Software Frameworkによる計測作業メモ
Aの器高は21.10㎝、Bの器高は18.94㎝です。
特徴的なこととしてAは底部径10.63㎝、口縁部径10.11㎝で底部の方がわずかに大きくなっていますが、Bは底部径9.85㎝、口縁部径10.20㎝で口縁部の方が大きくなっていることとです。この底部と口縁部の径の大小の違いにより器形から受ける印象が大きく異なってきます。Aはスリムに、Bは小太りな印象を受けます。
2 AB2点の意匠の差異
次の図に示す通り、ABの意匠に詳細な差異が見られます。
AとBの意識的意匠差異
文様浮彫展開写真(GigaMesh Software Frameworkにより作成)
・土器底部と口縁部に施文された縄文の方向が異なっています。
・注口状円環の模様がAは刺突文、Bは縄文で異なっています。
・たすき掛け状に施文された土器中部の縄文の交点部で、Aは縦方向の連続性が強調されますが、Bは横方向の連続性が強調されます。
・土器中部と上部・下部の区画がAは隆帯刻みですが、Bは沈線になっています。
・Aは土器口縁部径が底部径より少し小さくスリムに見えます。Bは土器口縁部径が底部径より少し大きく小太りの感じをうけます。
・AはBより2㎝ほど器高が大きくなっています。
これらの意匠差異はよく似た形状のABを一目で別モノとわかるように意識して施されたことは確実です。
3 考察
・AとBは実用土器(容器としての土器)ではなく、その存在が未発見の実在物の形を縮小して模したフィギュアであると考えています。
・AとBは意識してデザインを少し変えて作った意味のあるセットであると考えます。
・AとBの見た目の印象から人の夫婦を連想します。形状は土偶(土製の人形)ではありませんが、背の高い男性と小太りの女性を暗にイメージして作られたような印象を受けます。
・AとBは夫婦に関わる事柄のイベント(祭祀)で使われたと想像します。
・AとBのセットを作成したのが女性である(らしい)ことに大きな意味を予感します。男性は石棒という男性機能だけに関わる祭祀道具をつくるけれども、女性は夫婦(男性機能と女性機能)に関わる祭祀道具をつくる。女性が実は男性を包摂しているという指摘(※)が脳裏を横切ります。
※清瀬市郷土博物館内田裕治学芸員の指摘
加曽利B3式異形台付土器(加曽利貝塚)展示の状況 左がB、右がA
さらに続いて次の項目について検討を深めることにします。
・夫婦を予感させる大小土器同時出土例
・異形台付土器というフィギュアが模している実体装置の想定と機能
・異形台付土器の出自(前代の器台との関係)
・異形台付土器の展開(器形変化、分布)
・異形台付土器が使われたイベント(祭祀)の想定
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