2020年5月2日土曜日

上黒岩岩陰遺跡出土受傷人骨と身二つ

縄文社会消長分析学習 11

1 上黒岩岩陰遺跡出土受傷人骨
2020.04.23記事「産小屋としての上黒岩岩陰遺跡」で上黒岩岩陰遺跡の早期遺構からヘラ状骨器が刺さった女性寛骨が出土していることをメモして興味を持ちました。

ヘラ状骨器が刺さった女性寛骨
国立歴史民俗博物館研究報告第154集から引用

この受傷人骨に関して国立歴史民俗博物館研究報告第154集では次のように分析しています。
ア 受傷人骨は経産婦女性
イ ヘラ状骨器は装身具(垂れ飾り)
ウ 再葬墓から出土
エ 受傷の意義
「この受傷人骨については,これまでは生きている男性に1回刺しただけであるという前提のもとに解釈をくだしてきた。しかし,上記の不自然さをあれこれ総合して考えなおしてみると,むしろこの女性が亡くなってまもなく,遺体を右寛骨が上になるように固定した状態で2回突き刺した,おそらく実際には2回だけではなく骨まで至らない突き刺しも腹から腰付近に何回もおこなったあと最後に寛骨を貫通するまで突き刺した,と解釈するのが妥当ではあるまいか。そして,最後に骨器を突き刺したまま放置していたのは,むしろ意図的なものであって,なんらかの病気で亡くなった女性に対する儀礼行為としての処置であったのであろう。女性の腰の部分に骨器が刺さっており,その女性が妊娠痕をもっていたという事実は,出土人骨のなかに新生児や乳幼児の例が多いことと関連づけるならば,この女性が出産時に死亡し,そのことに対する儀礼的処置であった可能性が思い浮かぶ。その点では,埋葬時に遺体の胸や腹の上に大きな石をおき死者の霊が迷奔するのを防ぐという抱石葬に通ずるところがあろう。」

出産時に死亡した女性に対してヘラ状骨器を骨盤に貫通させて埋葬した意義とは抱石葬に通じるということです。ですから、その女性の霊が蘇らないようにという意味です。しかし、なぜヘラ状骨器が登場するのか、なぜ骨盤に貫通させたのかその意味が不明確でした。
ところが、次の情報に接して、恐ろしい儀礼が自分の脳裏に浮かび上がってきました。

2 妊婦葬送儀礼
Twitterでnishiyan@kotobano2さんから土偶に関連して梅原猛「葬られた王朝」を紹介していただきました。

梅原猛「葬られた王朝」

この図書の中で梅原猛がアイヌ女性から聞き取った内容に次のような記述が含まれています。
「しかし子供が死んだ時よりもっと大変なのは妊婦が死んだ時でした。せっかく祖先の霊が帰ってきて妊婦の腹に宿ったのに、妊婦が死んでしまったら、その子は妊婦の腹に閉じ込めらられてあの世に行けません。妊婦の腹に入つたままであの世に行けない先祖の霊は祟りをなすと思われていたのです。ですから妊婦はいったんふつうの人と同じように墓に埋めますが、翌日、霊力をもった女性がその墓を掘り返し、妊婦の腹を割いて、その胎児を女性に抱かせて葬ります」

この情報からさらにwebで情報を手繰ると、アイヌだけでなく東北では昭和20年代まで死んだ妊婦の腹から胎児を取り出す妊婦葬送儀礼が普通に行われていたことを知りました。
波平恵美子「日本人の遺体をめぐる観念と信仰」
ウィキペディア「死体損壊・遺棄罪」
「1950年〇〇県〇〇村で妊娠十ヶ月の妊婦が死亡した際に死後の安寧を願い妊婦と胎児を切り離し埋葬する「身二つ」と呼ばれる習俗が行われ、死体損壊罪として関係者が地元警察に摘発される事件が起きた。その後法務府は「かような行為は、たとえ非科学的であるとはいえ、死者の霊魂の安静を期するため一層礼意を厚くする趣旨において行われるものであることは客観的に明白である。」とし保護法益を侵害せず違法性を欠くので犯罪の成立を阻却するものであるとの見解を示した。」

3 上黒岩岩陰遺跡出土受傷人骨に関する感想
アイヌのみならず70年前の日本でも「身二つ」と呼ばれる習俗があることを知り、上黒岩岩陰遺跡出土受傷人骨について次のような想像をしました。
ア 妊娠女性が死亡した。
イ 妊娠女性の腹をヘラ状骨器で切り裂いて胎児を取り出した。…胎児をあの世に送るため。
ウ 妊娠女性の骨盤にヘラ状骨器を貫通させた。…妊娠女性があの世に行けないようにするため。
エ 妊娠女性と胎児を葬った。
オ 後日妊娠女性と胎児の骨を取り出し、上黒岩岩陰遺跡の再葬墓に再葬した。

妊娠女性が死亡するということは、女性と子供を含む家族創出という幸福の絶頂から不幸のどん底に落ちることであり、残された家人は絶望感に陥ったと考えられます。妊娠女性があの世に行き、再びこの世に生まれ変わり、同じように妊娠、死亡して家人が不幸になるということをさけるために、死体にヘラ状骨器を貫通させ、あの世に行くのを阻止したものと想像します。

縄文学習がこのような恐ろしいことを思考しなければならないとは、これまで知りませんでした。

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