2020年5月16日土曜日

環状石斧について アドバイスで入門知識が増大

縄文石器学習 8

1 縄文早期環状石器記事と皆様からのアドバイス
2020.05.13記事「縄文早期の環状石斧に驚く」で霧島市上野原遺跡から出土した縄文早期環状石斧、環石の存在の驚き、千葉市で最近開催された「環状石器展」との対比から、いろいろと空想・妄想して次の趣旨のことがらを書きました。「縄文早期環状石斧、環状石器は珍しい。その後喜界カルデラ爆発で途絶したようだ。弥生になって大陸からの影響で再登場した。」

この記事に対して、TwitterでYoshiHRさんから「あらっ、九州でも早期に環状石斧が出てるんですね。函館空港・中野遺跡で出土例があると、聞いたことがあります。子供のころに地元の早期の遺跡で5~6個表採したことがあり、最寄りの資料館にお届けしたことがあり、当時学芸員の先生からは函館とこの2例のみと伺っていました。」との情報をいただきました。

また、YoshiHRさんご紹介で八戸市博物館さんから「早期の環状石斧ですが、八戸市内では弥次郎窪遺跡・長七谷地貝塚の2遺跡で出土しています。近年の出土例については、青森県埋蔵文化財調査センター紀要22号 高橋哲氏の論考で触れられています。青森県内の出土例は、函館市の出土例より1段階新しいようです。」との情報をいただき、関連文献URLも教えていただきました。

石器学習を始めたばかりで、環状石斧は見慣れない特殊な石器と考えますが、ご提供していただいた情報で大いに興味が深まり、新たな疑問がいくつも生まれました。
皆様の情報提供に感謝します。

2 30年前の石器入門書が昨日届き、環状石斧のページを開くと…
たまたま昨日、2週間ほど前にweb古書店に注文していた30年前の石器入門書が届きました。
鈴木道之助著「図録石器入門事典 縄文」(1991、柏書房)
早速環状石斧のページを開くと、予期に反して環状石斧が図入りで比較的詳しく説明されています。


環状石斧、多頭石斧等紹介のページ
鈴木道之助著「図録石器入門事典 縄文」(1991、柏書房)から引用

・東北地方から中部地方に多い。
・東北地方では前期初頭の桂島式土器に伴って多く出土。
・岩手県矢巾町大渡野遺跡で早期後半条痕文土器のムシリⅠ式土器に伴って未成品を含む10余点が発見。
・早期後半の北海道夕張長沼町タンネトウ遺跡、青森県長七谷地遺跡でも発見。
・縄文時代のほぼ全期間を通じて存在し、弥生時代まで残存する。
・環状石斧と多頭石斧は穴にこん棒を通して使われたと考えられる。
・大渡野遺跡で直径6㎝の小形品があり、あるものは土製有孔円盤に似た用途かもしれない。

環状石斧についての30年前の考古知識集積を知ることができました。
・環状石斧は縄文早期後半ごろから縄文全期を通じて存在する。
・東北から中部に多い。
・類縁に多頭石斧がある。
・穴にこん棒を通して使われた。

この情報をもとにさらに手持ち資料でも情報を集めてみました。

3 手持ち資料による環状石斧の情報
3-1 縄文時代研究事典(1994)
・南方民族例として刃のない環石を含めた武器としてのこん棒頭石器がある。
・穴の小さいモノがあり、それは縄を通した打撃用利器。
・斧や土掘り具としての想定。
・朝鮮半島など初期農耕文化に特徴的に類例があることから、農耕文化伝播を示す弥生時代石器と考えられてきたが、近年では縄文早期出土例があり、後・晩期に至って関東地方以北を中心に発達し、弥生時代に全国的に分布することが明らかとなってきた。

3-2 『平凡社 改訂新版 世界大百科事典』
環状石斧
「周縁に刃部をつけ,中央部に貫通孔をもつ中高の円盤状磨製石器。外径は11㎝前後,厚さ約2㎝,内径は2~3㎝のものが多いが,大きさにはばらつきがある。貫通孔に棒を通して用いる棍棒頭の一種。石材には硬質砂質泥岩,輝緑凝灰岩,セン緑岩などを用いる。日本では縄文時代早期押型文土器に伴う例が最も古く,弥生時代後期まで用いられている。縄文時代の例は,福岡県を除いて東日本に集中し,弥生時代になると西日本にも多くなる。一方,中国では▶仰韶文化期までさかのぼる例があるものの,周代の夏家店上層式に伴う河北省・遼寧省の例が大多数を占め,朝鮮でも▶無文土器文化期の例がほとんどである。すなわち,弥生時代の環状石斧は青銅器や大陸系磨製石器と同様に,大陸からもたらされた可能性が強いともいえるが,縄文時代のものはその系譜は不明である。中国,朝鮮,縄文時代後期以後の日本では,多頭石斧と伴出する例も多い。」泉 拓良
石斧
「…また武器あるいは儀仗用の石斧には,ヨーロッパ新石器時代から青銅器時代にかけての▶闘斧や,中国新石器時代の有孔石斧の一部があげられる。環形の周縁を刃とし,中央の孔に柄をさしこむ▶環状石斧や,周縁にいくつもの突き出した刃を作り出した▶多頭石斧も,武器か儀仗用の棍棒頭mace headであって,世界各地の新石器時代から青銅器時代にかけて,また民族例に散見する。…」佐原 眞
『平凡社 改訂新版 世界大百科事典』 日立ソリューションズから引用


四麻溝遺跡から出土した石製品(撮影日不明、提供写真)。
9000年前に遡るとされる化德県四麻溝遺跡出土物

環状石斧とおぼしき石製品が石棒とおぼしき石製品とともに出土しています。

4 感想
・2と3-1、3-2はかなり古い情報ですから、現在では環状石斧の出土数も増え、研究はもっと進んでいるに違いありません。
・3-3情報を踏まえると、縄文早期には大陸と列島の双方に環状石斧が存在していたことは確実のようです。
・縄文早期までと弥生時代の双方の時期に環状石斧・環状石器が大陸から伝来したと考えても大きな矛盾はないようです。
・環状石斧には生業に関わる実用具としての意義はないと考えてよいようです。

現時点での自分の環状石斧・環状石器の用途に関する空想をメモします。
可能性1 動物送りにおいて最終的に動物を殺す場面で用いられた石斧・石こん棒
可能性2 罪人を制裁する、あるいは処刑するための石斧・石こん棒
可能性3 可能性1と可能性2の双方の機能をもつ石斧・石こん棒
可能性4 可能性2から派生して、司法の象徴品(人を裁く権威の象徴品)=司法的威信財

可能性1が真であるとすると、動物送りは極普通のイベントですから、もっと多数の環状石斧が出土してよさそうなものです。
可能性2、4が真であるとすると、列島縄文時代が争いの少ない時代としてイメージされていること及び弥生時代が争いの時代であることと、環状石斧出土数時代分布が符合します。

0 件のコメント:

コメントを投稿