2020年5月14日木曜日

上野原遺跡祭祀空間のゾーニング

縄文社会消長分析学習 18

霧島市上野原遺跡の発掘調査報告書をwebサイト「全国遺跡報告総覧」からダウンロードして向学のために寄り道学習しています。

発掘調査報告書に石器等出土分布図が多数掲載されていますので、自分が空間的なイメージを持つことができるように簡易な分析をして、思い浮かぶ感想をメモしました。そもそも居住空間についての知識なしで祭祀空間の本質が判ることは困難と思いますが、まず手を付けた祭祀空間から学習を積み上げていくしかありません。

1 石器全点分布図
上野原遺跡第10地点の石器全点分布が発掘調査報告書に掲載されています。

上野原遺跡第10地点石器全点分布図
上野原遺跡発掘調査報告書から引用

発掘調査報告書ではこれら膨大な石器はすべて運び込まれたもので、その分布は二重の環状をなしていることが述べられています。
この分布図のドット密度が濃いところを抽出して赤く塗ると見事な空間ゾーニングが現出します。

上野原遺跡第10地点石器全点分布図に基づく空間ゾーニング
上野原遺跡発掘調査報告書掲載図から作成

上野原遺跡に居住する縄文人が空間を使い分けた結果、つまり空間ゾーニングを設定して活動した結果、このようなA~Dのゾーンが現出したと考えることができます。
次に各ゾーンの性格や活動について考察します。
ア 全体
・A~Dゾーンは全体が北方向に下がる斜面になっていて、斜面の上→下の順にA→Dとなっています。この斜面からふもとに集落が、正面遠方に霧島(高千穂峰)を仰ぐことができます。縄文早期上野原遺跡縄文人にとっても霧島は霊峰であり、その眺望が最も優れた場所Aが祭祀場として最高ランクの場所であり、順次B→C→Dとランクが下落したと想像します。
イ 石器送り場
・膨大な石器がこの空間に運び込まれていることから、この空間全体が「石器送り場」という側面を持っていたことは確実であると考えます。
破損した石器を「送る」というだけでなく、石器持ち主が死亡したとき所持完形石器も「送った」と考えます。
・石器を送るという活動以外に石器を活用した多様な祭祀活動が行われ、その結果膨大な石器が持ち込まれたと考えます。
ウ A~Dのゾーンが生まれた意義
集落が行うありとあらゆる野外祭祀はすべてA~Dの空間で行われ、祭祀種類によってその場所がかなり明確に決まっていたと考えます。したがって年月が経ち、無数の祭祀活動が積み重なった結果がA~Dとして残ったと考えます。AとB及びCとDの境がかなり判然としていることからイナウ等で境界を示すなど、境界がわかる地物が存在していたかもしれません。
エ 道路
・Bゾーンでは石器密集域が途切れる場所が1箇所あります。それがAゾーンに入るための道であった可能性があります。その道はCゾーンに続くと想定できます。

2 遺構配置図

遺構配置図
上野原遺跡発掘調査報告書掲載図から作成
遺構配置図に空間ゾーニングを書き込んでみました。

ア Aゾーンの性格
Aゾーンに土器埋納遺構及び磨製石斧埋納遺構の4/6が分布します。
発掘調査報告書には土器は土坑に保管され、必要に応じて使われたという想定が可能な記述がされています。また磨製石斧も袋に入れられていた状況が想定され、これも保管され、必要に応じて使われた様子を空想することができます。
このような情報と、Aゾーンには他の石器出土が少ないことから、この場所が祭具保管場所であり、祭具を使った儀式を行う場所ではないと空想します。
Aゾーンには建物はありませんが、観念的には祭具保管神殿のような空間であったと考えます。その神殿前の儀式を行う場所がBゾーン、Cゾーンであると空想します。
なお、磨製石斧埋納遺構のうち2つがCゾーンに分布していますが、この二カ所の石斧は損壊の激しいモノであり、Aゾーンのそれと異なり「送った」跡かもしれません。
イ Bゾーン、Cゾーンの性格
集石遺構(Ⅳ類型)はほとんどBゾーン、Cゾーンに分布します。Ⅳ類型とは集石遺構でも底石や側石が存在する遺構としてしっかりしたものであり、その場所で火を焚き、調理した可能性のある場所です。調理を伴う祭祀を行った可能性のある場所です。集石遺構(Ⅳ類型)の分布からBゾーン、Cゾーンは野外祭祀のメイン会場であったと考えることができます。
ウ 尾根の東向き斜面における遺構分布
Cゾーンの集石遺構(Ⅳ類型)のうち図右側のものは尾根と東向き斜面の接点付近に列状に分布していて、とても特徴的です。
この特徴的分布は、その場所は東側に眺望が開けている場所であり、当時の縄文人の自然観、世界観の中で東方向を見つめる(拝む)ということが重要であったことを表現していると考えます。

3 異形石器出土分布図

異形石器出土分布図
上野原遺跡発掘調査報告書掲載図から作成
異形石器出土分布図に空間ゾーニングを書き込んでみました。

ア A~Cゾーンに分布する
・異形石器の用途がアイヌのイオマンテのような動物送りに使われた飾り矢や飾り槍の先だったと超空想しています。異形石器の出土がその動物送りの場所を指示しているのかもしれません。
・A~Cゾーンに分布することから、次のような空想をすることができます。
空想1…動物送りにもランクがあった。南九州一円の遠方から招待客を招くようなイベントにおける動物送りから、近郷範囲のイベントにおける動物送り、集落独自イベントにおける動物送りなど。そのランクに応じてAゾーン、Bゾーン、Cゾーンが使い分けられた。
空想2…この空間全体が近郷多数集落の共同祭祀場であり、集落ごとに姻戚関係や力関係でランキングが決まっていて、ランクの高い集落主催動物送りではAゾーンが使われ、それよりランキングの低い集落はBゾーン、Cゾーンを使った。
空想3…動物送りが組み込まれているイベント(祭祀)の重大性によって使うゾーンが異なった。例 社会の存続にかかわるような祭祀(長期にわたる天候不順や重大な災害)ではAゾーンを、年中行事ではB、Cゾーンを使うなど。

4 環状石斧・環石出土分布図

環状石斧・環石出土分布図
上野原遺跡発掘調査報告書掲載図から作成
環状石斧・環石出土分布図に空間ゾーニングを書き込んでみました。

ア 環状石斧はBゾーンから出土する
環状石斧(すべて破片)がBゾーンから出土します。これは環状石斧を送るとき、祭祀面で上位ランクのB空間で送ったことを示すと考えます。つまり環状石斧は一般石斧より丁寧に送られたことになると考えます。環状石斧が純粋な祭具だったと想像します。
環石がCゾーンから出土していますが、この意味は分かりません。

5 感想
1~4の検討(空想的検討)要点をまとめます。
ア 霊峰高千穂を仰ぎ、ふもとに集落が見える眺望のひらけた台地北向き斜面が祭祀空間として設定され、高所→低所でゾーニングが行われ、活動により空間が使い分けられた
イ 最高所Aゾーンは最も神聖な空間で祭具保管場としても使われた。保管されていたと想定される完形土器や石斧が出土する。
ウ BゾーンはAゾーン前のメインイベント広場であり、石器を伴う祭祀が活発におこなわれ多数の集石遺構と石器が残った。
エ CゾーンはBゾーンに次ぐイベント広場であり尾根沿いに集石遺構と石器が残された。石器送りの場でもあった。

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