2021年8月13日金曜日

イボキサゴ 観察記録3Dモデル モデルの改良

 2021.07.29記事「イボキサゴ 観察記録3Dモデル(試作)」でイボキサゴ3Dモデルを試作しましたが、イボキサゴの上半部だけのモデルでありきわめて不十分なものです。そこで下半部を含めて殻全体の3Dモデル作成にチャレンジしました。この記事は完全体3Dモデル作成チャレンジの途中メモです。

1 イボキサゴ 観察記録3Dモデル(試作2)

試作1と同じ個体について完全体3Dモデル作成を試みました。

イボキサゴ 観察記録3Dモデル(試作2)

2021.07.10木更津市盤洲干潟で採取

2021.08.11撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v6.006 processing 184 images


撮影写真の例


撮影写真から不要物を除去した(マスクした)写真


試作2のカメラ配置

2 試作2の難点


試作2の難点

ア 開口部内側の形状が実際と異なる

これはイボキサゴを乗せた針がイボキサゴに食い込む部分を写真上で消したためです。イボキサゴに食い込むモノを写真上でいじると3Dモデルは正常に出来ないことを確認しました。

イ テクスチャ全体が不鮮明

この3Dモデル作成用写真は撮影機材としてはランクの低いコンパクトデジカメで撮影しました。その理由はコンパクトデジカメの方が被写界深度が深く、対象物全体にピントが合い、ぼやけが少ない写真になるという特性があることを知ったためです。しかし、実際には一眼レフカメラよりピントの合わない写真が多くなりました。その理由はコンパクトデジカメはファインダーがないためカメラディスプレーを見て撮影しますが、カメラディスプレーではピントが真に合っているかどうか確認しづらく、微妙な最後の判断はカメラディスプレイでは出来ないことと、カメラディスプレーを見る時の姿勢では手が体から離れて手振れを起こす可能性が大きくなるためです。

ウ 一部形状が実際と異なる

おそらくイの特性により形状も不正確になったものと推定します。

3 イボキサゴ 観察記録3Dモデル(試作3)

イボキサゴ 観察記録3Dモデル(試作3)

2021.07.10木更津市盤洲干潟で採取

2021.08.12撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v6.006 processing 222 images


イボキサゴのサイズ


撮影写真の例


試作3のカメラ配置


イボキサゴ 観察記録3Dモデル(試作3)の動画

4 試作3の特性と要改良点


試作3の特性と要改良点

ア テクスチャは精細に表現されている

テクスチャは精細に表現されています。コンパクトデジカメでなく一眼レフによる撮影の結果です。

イ 形状は正確に再現されている

形状は正確に再現されているように観察できます。アの写真による結果であると考えます。

次の3Dモデル画像の食い違いはモデルの破綻ではなく、現物の形状そのものです。


3Dモデルの画像

一見してソフトの造形破綻のように見える。


現物の画像

3Dモデルソフトの造形破綻ではないことが確認できる

ウ 縦方向の筋が光って全体を白く覆っている

肉眼ではほとんど観察できない縦方向の微細な筋が逐一表現されています。顕微鏡的観察が可能になったという意味ではプラスに考えられる面もあります。今後撮影時の光線を変化させることで縦方向筋の表現と肉眼的に見える模様の双方をバランスをもって表現できるように調整することにします。

エ 針の一部が残存する

この針をBlenderで除去することも可能であるとは考えますが、その跡は「不正確な形状」(ごまかし)として残ります。今後、このような針に被せる方法ではなく、別の方法を考案して、「不正確な形状」(ごまかし)が生まれない3Dモデル作成にチャレンジすることにします。

5 感想

・完全体3Dモデル作成のコツが少しずつ判ってきました。

・被写界深度の深いカメラを希求していましたが、ファインダーのないカメラでは使いにくいことが体験できました。当面一眼レフカメラを使うことにします。ファインダーのある一眼レフカメラで被写界深度の深い、あるいは合成できるカメラを探すことにします。

・イボキサゴは有吉北貝塚の主要貝種であることから、納得できるイボキサゴ3Dモデル作成を目指します。

・長径16㎜のイボキサゴ3Dモデルが出来るようになれば、その技術を縄文早期土偶(例バイオリン形土偶)に適用してみたいと考えています。


2021年8月10日火曜日

貝層中の貝殻体積の測定

 縄文社会消長分析学習 123

2021.08.09記事「貝層体積の測定」で貝層区分別体積を求めました。そして以前の検討で貝層区分別の混土率(平均値)を求めています。そこで、この記事ではそれら2つの情報から貝層中の貝殻の体積と土の体積を測定しました。

1 貝層中の貝殻体積の測定

貝層区分別に体積×貝殻率で貝殻体積が求められると考えます。

ここで、貝殻率=1-混土率とします。

貝層区分別混土率(平均値)はこれまでの検討で次のように設定しています。


貝層分類別の混土率・破砕率の平均値

2021.07.28記事「混土貝層・混貝土層の成因 その2」参照

2 貝層中の貝殻体積測定結果


貝層区分別貝殻体積(㎥)


貝層中の貝殻と土の体積

貝層中の貝殻体積と土体積は全体でほとんど等量であるという結果になりました。貝殻1単位を投棄するとき、土1単位を近くで掘削・運搬してきてその場所に被せていると捉えることができます。


貝層中の貝殻と土の体積


参考 体積測定に使った断面図測線

断面図毎に(空間分布的に)見ると貝殻体積は谷頭部で高まりを見せますが、第3断面で最も少なくなり、その後下流に向けて順次値が大きくなり、第12断面で最大の値になります。また、貝層中の土体積は谷頭部で最も大きな値を示します。第3断面から第12断面までは土体積は増えますがその程度は漸進的です。

3 メモ

貝殻体積は下流部で大きな値をしめし、貝殻投棄量のメインは下流であったといえます。貝塚の本義(第1の意義)が貝殻の投棄場所(処分場所…文学的に表現すれば貝殻の送り場)であるという観点から見るならば、下流部が貝塚本来の意義を最もよく体現していると考えることができます。

谷頭部(第1断面谷頭、第2断面)で貝層中の土体積が大きな値となります。この場所は貝殻投棄場所(処分場所)という意義ではない、第2の意義が優った場所です。この場所では混貝土層の形成が継続的に行われ、その第2の意義の本質はガリー侵食防止工事であったと推定できます。


2021年8月9日月曜日

貝層体積の測定

 縄文社会消長分析学習 122

これまでに有吉北貝塚北斜面貝層の貝層断面図について貝層区分別に面積測定しました。この結果を利用して、この記事では貝層区分別体積を測定しました。

1 貝層区分別体積の測定方法

第3断面図から第15断面図までは2m間隔で断面が設定されています。この特性を利用して、各断面の貝層断面積に延長距離2mを乗じることによって体積を測定することにします。ただ谷頭部(貝層南側)の断面は少ないので最上流部付近は第1断面(縦断面)を利用して適切な延長距離を設定しました。第2断面・第3断面及び第12断面も適切な延長距離を設定しました。


貝層体積計測のための延長距離設定

2 貝層区分別体積測定結果


有吉北貝塚北斜面貝層 貝層区分別体積(㎥)


貝層区分別体積(㎥)

北斜面貝層全体で純貝層31.21㎥、混土貝層93.45㎥、混貝土層188.43㎥で合計313.09㎥となります。純貝層:混土貝層:混貝土層はおよそ10:30:60になります。混貝土層の割合が高いことが特徴であると考えますが、他貝塚の同様データは、自分は学習したことがありません。


貝層体積(㎥)

純貝層体積、混土貝層体積、混貝土層体積の合計値を断面別に(空間別に)示したグラフです。第6断面を底にして谷頭方向(南方向)と下流方法(北方向)に数値が大きくなるカーブを描いています。貝層形成(貝の投棄)活動が谷頭部付近と下流部付近で盛んであったことを示しています。


貝層区分別体積(㎥)

谷頭部付近では混貝土層の体積が大きく、第6断面に向かってそれが小さくなるのが特徴です。純貝層・混土貝層はあまりみられません。貝を投棄するとともにその上に土を被せる活動が盛んであったと推定できます。

一方、第12断面など下流部では純貝層・混土貝層・混貝土層が発達し、特定の区分に偏ることが少なくなっています。従って、単純に貝を投棄する活動もあれば、貝を投棄してその上に土を被せる活動も行われたと推定できます。

3 メモ

貝層区分別体積の空間分布から、谷頭付近では混貝土層だけが偏って発達し、かつその体積が大きいことが判りました。貝殻を撒いてその上に土を被せる活動が継続して行われたことを示しています。その場所は植物がとてもよく繁茂したと推定できます。谷頭付近は、縄文人がガリー侵食を食い止めるための土木工事をした跡であると表現することが可能であると考えます。


2021年8月8日日曜日

イボキサゴ破砕ミニ実験 成果大

 縄文社会消長分析学習 121

有吉北貝塚北斜面貝層のメイン貝種は中小形ハマグリとイボキサゴです。イボキサゴは破砕されているのが特徴です。イボキサゴの破砕が実際に貝層断面でどのように観察されるのか発掘調査報告書には良い写真がないので、参考に園生貝塚の貝層剥ぎ取り断面3Dモデルを観察しました。

2021.08.04記事「剥ぎ取り断面によるイボキサゴ破砕貝層の観察」参照

この記事ではイボキサゴ標本を実際に破砕してみて、そのミニ実験から判ったことをメモします。たわいのないミニ実験ですが、成果はとても大でした。

1 イボキサゴ破砕ミニ実験


破砕前のイボキサゴ

右(赤)イボキサゴが破砕用サンプル、左(緑)イボキサゴは破砕用サンプルと大きさが同程度の対照用サンプル

2 イボキサゴの破砕

ア イボキサゴ1個をラップでくるみ、それを数枚の新聞紙に挟み、手でつぶそうとしました。つぶれません。当方が高齢のため握力が減退していることもかかわるかもしれませんが、イボキサゴはかなり固いものです。

イ 同じものをコンクリートの床に置き、スニーカーをはいて乗りましたがつぶれません。スニーカーのかかとクッションが効いてしまっているようです。

ウ 同じものをコンクリートの床の上に置き、コンクリートブロックを乗せ、その上に自分が乗りました。音を立ててつぶれました。

ここまでの実験でイボキサゴの殻は相当に固いことが判りました。土器に多量のイボキサゴを入れて、上から棒でつぶすという自分の想定は間違っている印象を持ちました。多量のイボキサゴを棒の圧力で同時に破砕することはいくら力持ちの縄文人とはいえ困難であると考えます。またその行為を土器の中ですれば、土器が破損すること必定です。

3 イボキサゴ破砕結果

3-1 結果


破砕後のイボキサゴ

破砕した破片をまとめて置いたものです。


破砕後のイボキサゴ

破砕した破片をまとめて置いたものです。


破砕後のイボキサゴ

破砕後のイボキサゴをばらして置いたものです。


破砕後のイボキサゴ

破砕後のイボキサゴをばらして置いたものです。

3-2 見かけの体積

完形イボキサゴの見かけの体積(螺旋内部空間にモノが詰まっていると考えた時の体積)と破砕してバラバラにしたものの実体積(破砕物を水に沈めた時、排除される水の体積)を比較すれば、後者は前者より生体が居住していた螺旋内部空間分だけ減少することになります。実際に視覚的に上の写真を観察すると1/3程度に減少しているような印象をうけます。

3-3 内部生体組織の残存

破砕したイボキサゴには生体組織(有機物)が残存していて、破砕物から弱い臭気が発生しています。イボキサゴ標本の生体部分取り出しは繰り返して行い、最後はポリデント処理までしたのですが、思いもかけない程度の生体組織残存です。

この結果を単に自分の標本作成法が未熟であると考えるか、それともイボキサゴから生体組織を完全に取り去ることはほぼ不可能であるかと考えるかで、得られる情報が異なってきます。

4 考察

4-1 縄文人のイボキサゴ破砕法

イボキサゴ殻が固いという実態を踏まえて、縄文人がどのようにしてイボキサゴを破砕していたのか実験的方法も加えながら検討する必要があります。

例えば、台石の上にイボキサゴを置き磨石で梃の原理を利用しながら1個1個つぶしたともイメージできます。木製台とか、木製棒、土器(片)では多量のイボキサゴすりつぶしは困難であったと考えます。

4-2 イボキサゴ破砕による貝殻見かけ体積減少

今回の破砕実験結果から、貝層断面でイボキサゴ破砕層を見る時、破砕層の単位断面積当りの元のイボキサゴ個体数は同じ単位断面積の完形イボキサゴ層よりはるかに多いことが判ります。イボキサゴ破砕層を観察する時にイボキサゴ個体数の過小評価に注意することが大切です。

4-3 イボキサゴ破砕物に付着する生体組織(有機物)

今回の実験結果から、イボキサゴから生体組織を完全に取り去ることは、その大きさと人指の大きさの関係から、現代人も縄文人も同じで、ほぼ不可能であったという前提を仮定して考察します。

この実験結果から、縄文時代イボキサゴ破砕物には必ず生体組織が付着していて、それが貝層に投棄されたと確実にいえそうです。

つまりイボキサゴ破砕層は有機物に富んでいて臭いも強烈であったということです。ここに土を少しかぶせればその場所は土に養分があり、太陽光に恵まれている場所ですから、植物にとっての天国が生まれたことになります。

混貝土層は「締まった土」を生成してガリー侵食に対抗したという視点だけでなく、「植物生育を促す圃場」を形成して、植物繁茂によりガリー侵食に対抗したという視点も重要な仮説になると考えます。

さらに、意図して植物生育を促した活動が存在したということは、その活動と有用植物の採集とか植物の栽培とかなどが絡むのか否かという問題も意識せざるを得なくなります。

4-4 イボキサゴ利用の一つの仮想イメージ

ア イボキサゴを土器で煮る(中身の肉が固くなり殻から分離しやすくなる、ゆで汁はスープとして利用する)

イ ゆでたイボキサゴ1個1個を台石の上で磨石で潰して、中身と殻を一緒に土器に入れる

ウ 土器に水を入れて浮かぶ中身(肉)だけ選別する(中身(肉)は干し貝として製品化する)

エ 土器の中で上澄み(内蔵のドロドロした部分)と殻を回転運動などで分離して上澄みだけ取り出す(上澄みは加熱濃縮し、旨味液体・旨味固体・旨味粉末などとして製品化する)

オ 土器に残った破砕殻は混貝土層の素として貝層(圃場)に撒く

カ 破砕貝を撒いた上に土を被せる【混貝土層の形成】(イボキサゴ由来栄養分を多量に含んだ良質な土壌が形成される)

キ 植物繁茂により地形侵食防止を期待する。生えた植物の中から有用植物を選別して生活で利用する。(有用植物を栽培する。?)


2021年8月6日金曜日

ヴィレンドルフのヴィーナス切手と石偶

 1 考古学切手の収集

切手の博物館企画展「切手de考古学」を観覧して、世界の考古学切手に興味をもちました。世界の考古学切手を収集して世界の遺跡や遺物に興味を持てればうれしい思いました。さいわいにも、切手の博物館学芸員田辺先生に切手収集のコツのアドバイスをいただくことができました。その中の次の言葉は特に重要だと思いました。

「インターネットで検索して集めた情報を自分なりにまとめておく。それをもとに、切手を販売しているお店や個人をワールドワイドに探す。」

「この切手を手に入れたいと思っても、なかなか手に入らない。手に入るものから、手に入れる。」

早速探してみると、企画展でも展示されていた「ヴィレンドルフのヴィーナス」切手を見つけました。そこで、インターネット購入第1弾として購入して、切手をみながら頭に浮かぶ妄想を楽しむことにしました。

2 ヴィレンドルフのヴィーナス切手


ヴィレンドルフのヴィーナス切手(スキャナーでスキャン)

Venus of Willendorf オーストリア、2008、レンチキュラー印刷(微細レンズ集合によりビーナスが背景の中で立体的に見える、さらに背景の背景でビーナスの影が動く)、7㎝×7.5㎝、販売店価格¥1000。


切手裏面


ヴィレンドルフのヴィーナス切手(カメラで撮影)

3 妄想 その1

ヴィレンドルフのヴィーナスはウィーン自然史博物館の収集品です。以前この博物館を訪ねた時はハルシュタット岩塩坑遺跡を見学した直後であり、その遺跡展示のみを集中観覧しています。次に訪問する機会があれば、ぜひとも本物ヴィレンドルフのヴィーナスを観覧したいと思います。


ウィーン自然史博物館で観覧したハルシュタット岩塩坑遺跡展示


ウィーン自然史博物館のページにでてくるヴィレンドルフのビーナスの側面写真


ウィーン自然史博物館が提供するGoogle Arts & CultureのVenus of Willendorf画面

この切手をみながら、何故か気持ちがウィーンなりヴィレンドルフなりに本格的に飛びません。気持ちが飛んだのはなんと日本の四国です。

4 妄想 その2

自分の考古学学習では学術論文はあまり読んだことがありません。しかし、以前上黒岩岩陰遺跡学習の時には次の学術論文を読んで大いに感動しました。考古学学術論文のすごさ、面白さを痛感しました。考古学の学術性とはまさにこのようなことだと大いに感心しました。


春成秀爾・小林謙一著「愛媛県上黒岩遺跡の研究」(国立歴史民俗博物館研究報告154、2009)

この論文では上黒岩岩陰遺跡から出土した石偶をユーラシア大陸ヴィーナス像との関連でその意義を捉えています。


上黒岩岩陰遺跡出土石偶

春成秀爾・小林謙一著「愛媛県上黒岩遺跡の研究」(国立歴史民俗博物館研究報告154、2009)から引用

この論文の石偶意義検討部分を、自分なりに理解すると次のようになります。後期旧石器時代ヴィーナス像を乳房の表現のあるものからないものへと型式学的に配列してみると、最後は女性器だけは一貫してY字形で表している。この大陸の簡略化傾向と同じ傾向が上黒岩の石偶にも認められ、女性と見て間違いない。石偶の線刻は陰毛や陰裂を表現していて、女性器を強調表現している。約1万5000年前の大陸(シベリア)の土偶と上黒岩の石偶は3万㎞以上離れているが、隣同士連鎖的に交流しながらシベリアと日本がつながっていた。


シベリア・ウクライナの後期旧石器時代中頃と後半のヴィーナス

春成秀爾・小林謙一著「愛媛県上黒岩遺跡の研究」(国立歴史民俗博物館研究報告154、2009)から引用


ウクライナ・シベリア・ヨーロッパの後期旧石器時代後半のヴィーナス

春成秀爾・小林謙一著「愛媛県上黒岩遺跡の研究」(国立歴史民俗博物館研究報告154、2009)から引用

そして、この論文では上黒岩から石偶とともに子安貝(タカラガイ)が見つかっていることを指摘した上で、石偶用途が現代にも伝わる子安貝民俗例と同じで、産婦が出産に際して手でもつ安産祈願道具であったことを推定しています。


子安貝の加工品と民俗例

春成秀爾・小林謙一著「愛媛県上黒岩遺跡の研究」(国立歴史民俗博物館研究報告154、2009)から引用

このように、自分の頭の中で、ヴィレンドルフのヴィーナス→女性器だけを象徴表現した簡略ヴィーナス→上黒岩岩陰遺跡出土石偶→子安貝という関連性の妄想が生まれ強化されました。

たった1000円の考古学切手で後期旧石器時代から縄文時代、そして現代にまで連鎖するヴィーナス関連思考(妄想)を楽しむことができました。

5 参考


上黒岩岩陰遺跡の場所

上黒岩岩陰遺跡の石偶出土層位は日本では縄文時代草創期ですが、ヨーロッパの考古編年ではその時代は後期旧石器時代に入ることが上記論文で指摘されています。


貝層断面図の面積測定 2

 縄文社会消長分析学習 120

有吉北貝塚北斜面貝層の貝層断面図について貝層分類別に面積測定しています。この記事では第2断面~第15断面(横断面)の面積測定結果を眺めてみます。

1 面積測定結果


有吉北貝塚北斜面貝層断面別 貝層区分別断面積(㎡)

2 貝層区分別断面積(㎡)


北斜面貝層横断面別 貝層区分別断面積(㎡)

純貝層と混土貝層(混土率50%まで)は大局的にみて第2断面から第12断面の方向(上流→下流の方向)にその断面積を拡大するように観察できます。一方、混貝土層(混土率50%以上)は第2断面から第12断面の方向でみてあまり変化しません。一定の値に近いような印象を受けます。なお、純貝層+混土貝層+混貝土層の合計値は第2断面から第12断面の方向で拡大します。

断面積の値(結局は体積の値)の挙動が、混貝土層と純貝層・混土貝層とでは異なることに大きな問題意識が生まれます。

投棄された貝は下流で多かったといえます。また、上流では混貝土層が「異状に多い」といえます。

3 貝層断面図での確認

代表的断面として第2、第6、第11断面をとりあげ、観察します。


第2断面


第6断面


第11断面

全ての断面で貝層の最下層が混貝土層になっています。また第1断面図(縦断図)の最上流部を見ると次図のように混貝土層が谷頭部侵食地形を充填しています。


第1断面図(縦断面図)谷頭部の様子と所見

4 メモ

これらの事象から混貝土層のほとんどは縄文人が意図して生成した物質(材料)である可能性が濃厚であると考えます。つまり、純貝層や混土貝層から自然営力で貝殻と土が混ざって混貝土層ができたのではなく、混貝土層という物質(材料)を初めから意図して生成して、それを貝塚形成の最初時期に一斉に北斜面に隈なく配置したと考えることが合理的です。

現時点ではガリー侵食が急拡大して集落立地が危機にさらされたので、貝殻を砕いて土と混ぜそれをガリー侵食谷斜面に広域配置し、それによって地形侵食を弱めたのだと考えています。混貝土層の全面配置の後に、貝殻を下流部を中心に投棄して、結局ガリー侵食地形を全部埋め立てたというストーリーが考えられます。



2021年8月4日水曜日

剥ぎ取り断面によるイボキサゴ破砕貝層の観察

 縄文社会消長分析学習 119

有吉北貝塚北斜面貝層の学習ではイボキサゴの意義に関する学習が大きなポイントであると直観しています。特にイボキサゴの破砕についての意義が焦点となります。そこで、1年前に千葉市埋蔵文化財調査センターで撮影し3Dモデルを作成した、園生貝塚貝層剥ぎ取り断面のイボキサゴ破砕貝層を参考として観察しました。

1 園生貝塚貝層断面 観察記録3Dモデル

園生貝塚貝層断面 観察記録3Dモデル

平成20年度確認調査

縄文時代後期~晩期(約4000~3000年前)

断面の大きさ:95㎝×270㎝

撮影場所:千葉市埋蔵文化財調査センター

撮影月日:2020.08.21

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.003 processing 102 images


展示の様子


3Dモデルの動画

2 イボキサゴ破砕貝層の観察


イボキサゴ破砕貝層拡大写真位置図


写真1

イボキサゴ破砕貝層とその上にのる二枚貝貝層との境付近の様子です。子細にみるとイボキサゴ破砕貝粒径は必ずしもソートされていませんから、水流の影響を受けていないことは確実です。雨水の影響は当然受けていますから、写真では確認できないような微細なかけらは地下水と一緒に下方に流れていったに違いありません。

二枚貝貝層には完形に近いイボキサゴとその破片が二枚貝の間を充填しています。


写真2

イボキサゴ破砕貝層の中央部付近です。完形やそれに近いイボキサゴが中央で横に薄く層状に観察できます。この写真から破砕されたものの量がほとんどであり、完形に近いものの量は極わずかであることが判ります。完形に近いものが層状になっている事象の一つの解釈として、イボキサゴを破砕して利用した最後に、土器の中で残った貝殻を取り出すために水をいれて洗う行為があり、この時破砕貝殻と破砕されそこなった少数の完形貝殻がソートされ、そのソートのまま破砕貝が籠などに入れられて貝塚に持ち込まれたと仮想します。


写真3

二枚貝層の上のイボキサゴ破砕貝層の様子です。二枚貝層の直上には完形に近いイボキサゴが層を成しています。これは二枚貝の層には空隙が多いために、雨水が地下に浸透する際に破砕貝殻を下の二枚貝層に移動させたことによると考えられます。完形イボキサゴは二枚貝層の空隙よりも大きいので、それだけ選別されて残ってしまって層を成したと考えることができます。


写真4

二枚貝の間には完形イボキサゴとイボキサゴ破砕貝殻片が充填しています。この写真には完形に近いイボキサゴがかなり多く見えます。もしも、イボキサゴの破砕貝殻量と完形貝殻量の比が一定であるならば、この写真の泥のように見える部分は実際にはイボキサゴ破砕貝由来の物質であると言えるかもしれません。


写真5

オキアサリ純貝層のオキアサリ貝殻間隙を良くみるとイボキサゴ完形貝とイボキサゴ破砕貝が隈なく充填しています。オキアサリを利用してその貝殻はそれだけでこの場に投棄したとは思いますが、同時にイボキサゴの投棄もあったことになり、イボキサゴ利用がきわめて盛んであったことを物語っているように感じます。


写真6

アカニシとか獣骨とかマガキなどの注記がありますが、大きなモノの間は破砕イボキサゴと完形イボキサゴが隈なく充填しています。完形イボキサゴは「目に見える」のでその存在は判りますが、破砕イボキサゴの量はまるで泥のように見えてしまい、結局「目に見えない」ことになっているのではないか、疑問が生まれます。

3 感想

3-1 縄文中期と後晩期のイボキサゴ利用

園生貝塚貝層剥ぎ取り断面は縄文後晩期の資料です。一方、現在学習中の有吉北貝塚北斜面貝層は縄文中期の遺構です。時期は異なりますが、イボキサゴの利用方法は同様であったという前提で以下の感想をメモします。

3-2 イボキサゴ破砕が利用のメイン

イボキサゴ破砕貝層がイボキサゴ利用の真の姿を反映している可能性を強く感じ取ります。

つまりイボキサゴは破砕して中身を取り出し、その破砕貝殻を貝塚に投棄したのであり、イボキサゴ1つ1つから中身を取り出すことはメインではなかったと考えます。

この仮説は自分がイボキサゴを扱ってみた直観と一致します。自分の指先の大きさとその筋肉感覚からは、いくら最適な道具を使い、いくら習熟しても、イボキサゴ1つ1つから中身を取り出して得られる成果は、あまりに小さく、生活の中で非効率感、非現実感しか持てないと感じました。

3-3 イボキサゴ破砕利用のイメージ

土器の中でイボキサゴを潰して中身(肉と内蔵)と破砕貝殻が混じった状態をつくる。水(海水)をその土器に入れて中身(肉と内蔵)と破砕貝殻を比重の違いを利用して分離する。破砕貝殻だけを貝塚に投棄する。中身は煮詰めて最後は乾燥させて固形旨味の素を作る。あるいは肉と液状部分(内蔵)を分離して、肉は乾燥貝にし、液状部分(内蔵)は魚醤として、タレ(旨味)の素などとして利用する。

3-4 イボキサゴ利用量が低く見積もられている可能性

イボキサゴは破砕されて利用され、完形イボキサゴは破砕されそこなった極一部であるとすれば、破砕イボキサゴ貝殻片は極小さいので、容易に二枚貝貝層の中に移動浸透してしまう可能性が大です。このようなイボキサゴ破砕貝の貝層内移動事象により、イボキサゴ利用の実態が過少評価されている可能性がないか、疑問が生まれます。

2021年8月2日月曜日

貝層断面図の面積測定 1

 縄文社会消長分析学習 118

有吉北貝塚北斜面貝層の貝層断面図について貝層分類別に面積測定しています。この記事では第1断面(縦断面)の面積測定結果を眺めてみます。

1 第1断面(縦断面)とその位置


第1断面(縦断面)(illustrator作業図)


第1断面(縦断面)の位置

2 面積測定結果

2-1 貝層別断面積


貝層別断面積

純貝層、混土貝層、混貝土層、砂層、土層の5区分では混貝土層の断面積が最も大きくなっています。

貝層(純貝層、混土貝層、混貝土層)とそれ以外(砂層、土層)は次のように、全体の約6割が貝層になります。


貝層、砂層・土層別割合

2-2 貝と土・砂別にみた断面積

2021.07.28記事「混土貝層・混貝土層の成因 その2」で、貝層別分類の混土率の平均値を求めました。


貝層分類別の混土率・破砕率の平均値

この貝層分類別混土率平均値を原単位として使い、純貝層、混土貝層、混貝土層という区分を貝層中の貝、貝層中の土という区分に変換しなおしてみました。その結果をグラフにすると次のようになります。


貝と土・砂の断面積(実面積)

貝層を取り上げると、貝と土の断面積は拮抗しています。大雑把にみれば、貝殻1単位を廃棄するとほぼ同量の1単位の土が混ざりこむことになります。自然の営力でそれほど大量の土が供給される仕組みが考えづらいとすれば、少なくとも土の一部は縄文人が持ち込んだことになります。混土貝層、混貝土層の土がもともと存在していた場所とその移動の仕組みを詳しく検討することが必要です。


貝と土・砂の断面積(割合)

貝と土・砂という2分で全体の断面積の割合を求めるとおおよそ貝の断面積の割合は全体の1/3になります。

3 メモ

北斜面貝層は後年の撹乱の影響を受けていない、プライマリーな貝層です。縄文人がつくった貝層がそのまま出土した珍しい貝層です。その貝層の全体像イメージを15葉ある貝層断面図の断面積分析から得ることにします。この記事では全体像を知る予察的作業として縦断図の分析をしました。

4 面積測定法

第1断面(縦断面)(illustrator作業図)→2m×2m図形を書き込みpsdファイル出力→psdファイルをPhotoshopで読み込む→Photoshopで当該オブジェクトを範囲指定しヒストグラムの全ピクセル数値を知る。2m×2m図形の全ピクセル数値を使って当該オブジェクト全ピクセル数値を㎡数値に換算する。


psdファイル

赤四角は2m×2mの図形