2020年7月3日金曜日

4.3kaイベントの予察検討

縄文社会消長分析学習 33

1 4.3kaイベントは本当に存在するのか(よからぬ思考)
山田康弘著「縄文時代の歴史」(2019、講談社現代新書)によれば「ちょうど中期と後期の間頃には、環境史による研究成果から気候の極端な冷涼化があったことがわかっている。この気候の冷涼化は、およそ4300年前に起こり、その年代から4.3kaイベントと言われている。」と書かれていて、気候の極端な冷涼化が自明のこととして考古諸事象が書かれています。

ところが、気候の極端な冷涼化の資料がいくら探しても見つかりません。
昨日今日一所懸命探してないのですが、実は3年程前から房総の縄文社会崩壊と気候変動については興味があり、それ以来折に触れて気候そのものの冷涼化資料を探していますが見つかりません。

自分の資料探索能力の欠如を嘆きます。

同時に、考古学専門家の方がグリーンランド氷床コアデータなり、水月湖年縞データを引用して、縄文中期から後期の気温低下と縄文社会消長を関係づけた研究は、実は存在していないかもしれないと疑います。
気候との関係をうたった論文でも、真のデータは考古事象そのものばかりで、考古事象から気候を「類推」するばかりです。4.3kaイベントなどという専門技術用語を使ってお茶を濁しているのではないかと疑います。

資料探しに没頭して成果が上がらないので、疲れで「よからぬ思考」が生まれてしまったようです。

2 生データによる予察検討
ア 坂口豊花粉分析による縄文中期寒冷期
坂口豊(1993)の尾瀬ヶ原古気候曲線は花粉分析によるもので、このデータを考古学者が利用しているかもしれないので、素人分析してみました。

坂口豊 縄文中期寒冷期(JC1)の較正年代換算
寒冷期にBC年が書かれています。この年はC14測定データであり、較正されていないものと考えます。これを暦年で丸めて、それを較正年代早見表(Intcal13による)(工藤雄一郎作成、歴博データベース掲載)で簡易較正してみました。
縄文中期寒冷期のはじまりは5350年前、終わりは4970年前となります。

イ 加曽利E式土器付着物の暦年較正年代
データベースれきはく(国立歴史民俗博物館)の遺跡発掘調査報告書放射性炭素年代測定データベースを加曽利Eで検索すると140レコードがヒットする(2019.01.30現在)のですが、そのなかから土器付着物をAMS法で測定したレコード53件を時期別に集計してみました。さらにそれをオックスフォード大学公開較正プログラム(OxCal)で暦年較正年代を調べてみました。
2019.02.10記事「加曽利E式土器の暦年較正年代」参照

加曽利E式土器のC14年代(生データ)

加曽利E式土器の暦年較正年代
・加曽利E式土器の区分がE1、E2、E3、E4、EⅤとなっていて、EⅠ~EⅣがこの中にどのように組み込まれているのかよくわかりません。単純に1とⅠ、2とⅡ…のようになっているのかもしれません。不明です。
・E1よりE2の方が古い年代になり矛盾しています。その理由もわかりません。(サンプル数がすくなく、偏っていることに起因するとは直観しますが…。)
・以上のように問題はありますが、加曽利E式土器の型式別較正年代がイメージできたことは自分レベルでは大成果です。

ウ グリーンランド氷床コアによる気温変化グラフ

グリーンランド氷床コアによる気温変化グラフ
Wikipediaから引用
4.3kaイベントといわれる気温低下期は見られません。微細にみればその時期は逆に気温が上昇しています。

エ グリーンランド氷床コアによる気温変化グラフと坂口データ、加曽利E式土器データとの関連
グリーンランド氷床コアデータによる気温変化グラフ(Wikipediaから入手)に上記アとイのデータをオーバーレイしてみました。

グリーンランド氷床コアデータによる気温変化グラフと坂口豊縄文中期寒冷期較正年代、加曽利E式土器暦年較正年代

・坂口の寒冷期はグリーンランド氷床コアデータのミクロな気温上昇期に対応しています。坂口の寒冷期は較正年代からいっても4.3kaイベントとは関係ないようです。
・加曽利E2式土器の年代がグリーンランド氷床コアデータのミクロな気温上昇期に対応しています。・加曽利E2式期が中期人口急増期で、縄文時代で人口ピーク期になります。
・加曽利E3、E4~Ⅴはグリーンランド氷床コアデータのミクロな気温下降期に対応しています。E3→E4→EⅤ(称名寺式期)は人口急減期ですからミクロな気温下降期と対応します。
・加曽利E式土器変遷にみる社会消長はミクロな気温変化と対応します。しかし、それは極端な気温低下でもなく、4.3kaイベントでもありません。

オ 予察検討の感想
・グリーンランド氷床コアデータは世界全体の気温変動の指標となると考えますが、同じような精度でのデータが水月湖年縞データであれば、そちらを優先して考察すべきであると考えます。
・4.3kaイベントは実在しない概念の可能性大です。縄文中期から後期・晩期の極端な冷涼化という概念も実在しないようです。これらの概念は考古事象から期待されて専門家に流布した共同幻想のようです。
・加曽利E式土器の予察から、微妙な気候変動が社会変動に影響を与えている可能性はあると思います。つまり考古学者が考えるような冷涼化による社会衰退というプロセスが、4.3kaイベントとは全く別に考察可能であるということです。
・気候変動大局観からして微妙な程度の冷涼化が縄文社会消長に影響しているということは、縄文社会にそのものに内在発展した変動要因が大きく、その内在変動要因の引き金に気候変動が役割をはたしていると直感します。気候変動が社会変動の一因であることは間違いないと考えますが、他の要因により大きな意味があるかもしれません。
【結論】
・グリーンランド氷床コアデータによる気温変動グラフと加曽利E式土器編年との関連付が可能であり、気候変動と縄文社会消長の関連分析が可能であるということになります。



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