2019年2月14日木曜日

加曽利EⅠ式深鉢(甕被葬土器)の観察と感想

縄文土器学習 26 加曽利貝塚博物館企画展展示土器の観察 5

加曽利貝塚博物館企画展「あれもE これもE -加曽利E式土器(千葉市内編)-」(3月3日まで開催)の展示土器38点の個別観察をメモしています。この記事はNo.5土器です。

1 加曽利EⅠ式深鉢(甕被葬土器) No.5

加曽利EⅠ式深鉢(甕被葬土器) No.5
有吉南貝塚出土

加曽利EⅠ式深鉢(甕被葬土器) No.5
有吉南貝塚出土

2 有吉南貝塚における出土状況
「土壙内に甕被仰臥屈葬の埋葬人骨が発見され、頭部を被覆する土器から加曽利EⅠ式期の埋葬であることが判明しており、特筆すべき成果として、埋葬人骨が着装している装身具2点がある。ひとつは左肘部と左寛骨に挟まれて出土した腰飾とおもわれるイルカの下顎骨製装身具であり、もうひとつは左手付近から出土した垂飾と思われるイモガイの半截品である。この人骨は大坐骨切痕の形態から男性であることは確実で,大腿骨最大長の略測値から縄文時代人の平均値からは著しく逸脱する高身長(約180cm)が推定される。かなり特殊な地位にある人物であったことは疑いのないところであろう。」(注 この記述の後出版された有吉南貝塚発掘調査報告書では高身長は訂正されて158cm程度とされている。)

甕被葬人骨 「千葉県の歴史 資料編 考古1(旧石器・縄文時代)」から引用
2018.09.10記事「事例学習 有吉南貝塚」参照

この甕被葬に使われた土器がNo.5土器です。

3 観察と感想
3-1 器形と模様
・加曽利EⅡ式土器で特徴的な渦巻きが存在しますが、磨消縄文が無いことが大きな決め手となってEⅠ式土器として分類されていると理解しました。
・頸部から口縁部が立体的に深く作られていて他の加曽利E式土器と比べて装飾性が強い、つまり実用性から離れていると感じました。

No.5土器の頸部から口縁部付近の立体性・装飾性の様子

3-2 頸部と胴部を区画する紐状隆帯の様子
・頸部と胴部を区画する水平紐状隆帯の様子が下からの光線で浮かび上がって、写真で細かく観察できます。

頸部と胴部を区画する紐状隆帯の様子
青線は微細な直線状影

頸部と胴部を区画する紐状隆帯の様子
青線は微細な直線状影

浮かび上がった直線状影の様子から次のような作業工程を想像しました。
・頸部、胴部に縄文、沈線を描く。
・紐状粘土を隆帯の位置に貼り付ける。
・先が細いヘラで隆帯下部を水平にするようになぞる。なぞりは2回程行う。
・隆帯上部は最初に指で置いた粘土の位置に留まるため凸凹する。
・隆帯粘土は薄いのでその下の縄文、沈線が透かしのように浮かび上がる。

3-3 甕被葬とNo.5土器
No.5土器を詳しく観察しても胴部下部の顕著な摩耗や内面の喫水線様黒模様は見つかりません。よもやこの土器が最初から甕被葬転用を意識してつくられたものであるということはないと想像しますが、次の点を専門家の方に質問したいと思います。
・No.5土器は特段に装飾的土器であると言えるか。
・No.5土器の意匠(装飾性)と甕被葬に使われたことと関係がある可能性が考えられるか。

3-4 3Dデータの作成
No.5土器の展示位置はガラス面と照明の関係で、写真撮影上不利です。写真にガラス面反射がどうしても写ってしまいます。このような不利条件で3Dデータがどこまでつくれるかテストすることにします。
用意した写真は次の9枚です。
このような普通の(つまり良くない)条件下での10点程度撮影でつくる3Dデータに少しでも有用性があれば、それは価値の創出につながると考えます。いろいろな実験をすることにします。

3Dデータ作成実験用写真

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企画展の加曽利EⅠ式土器展示の様子

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追記 2019.02.15
・土器の話題から離れますが、甕被葬の意義をまったく理解していないので、学習を深めたいと思います。大膳野南貝塚学習でも登場しましたから縄文時代に特段に特殊ではないと思います。それがニュートラルなイメージなのか、プラスか、マイナスか知りたいと考えています。有吉南貝塚の事例紹介では身分が高いから甕被になると専門家が考えているのか?
・近世の例では不浄の遺体を土葬するとき顔に鉄鍋を被せるなどの民俗例があるようなので、そうした例が本来の縄文時代意義が矮小化された(零落してしまった)結果とも妄想し、興味が湧きます。

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