2019年2月20日水曜日

加曽利EⅣ式器台の観察 香炉の可能性

縄文土器学習 36 加曽利貝塚博物館企画展展示土器の観察 14

加曽利貝塚博物館企画展「あれもE これもE -加曽利E式土器(千葉市内編)-」(3月3日まで開催)の展示土器38点の個別観察をメモしています。この記事では急遽予定を変更してNo.36器台を観察します。加曽利EⅡ式器台(№12)観察と一緒に観察・考察して器台の意義についての学習を深めるためです。2019.02.19記事「加曽利EⅡ式区画文土器等の観察」参照

1 加曽利EⅣ式器台 No.36

加曽利EⅣ式器台 No.36
広ヶ作遺跡出土

加曽利EⅣ式器台 No.36
広ヶ作遺跡出土

2 発掘調査報告書における記述
No.36器台は縄文時代中期竪穴住居(2号住居跡)の床直上から出土していて、「広ヶ作遺跡調査報告」(1984、千葉市遺跡調査会)(以下発掘調査報告書と略称)では次に記述されています。

「2は器台形土器である。深鉢形土器の胴部下半を切断し上下逆にしたような形状をしめしている。通常の土器底部と異なる点は、器台上面が上げ底風に深く窪んでいる点で、この面には特に念入りな調整が施されている。また周囲には3対6個の透し孔があけられているほか、文様は施文されていない。土器の内面の調整は粗雑で、この土器は内面を問題にしていなかったことがわかる。」

器台挿図
発掘調査報告書から引用

器台出土状況写真
発掘調査報告書から引用

器台写真
発掘調査報告書から引用

3 観察・分析・感想
3-1 器形
No.12器台と形状や大きさが類似しています。孔があいている点も一緒です。No.36の表面には模様はありません。またNo.12のような物理的キズ(土器を置いたような擦り切れ)は見つかりません。
No.12とNo.36は形状がほぼ一致しているのでその用途は同じであると想定して考察します。

3-2 分析
器台上面の凹んだ部分の模様をよく観察すると黒い部分、白い部分、喫水線様の黒い円形筋線が観察できます。喫水線様の黒い円形筋は2本以上観察できます。

器台上面の模様

器台上面の模様 中心部の喫水線様の黒い円形筋線

黒い部分はオコゲ(炭素)、白い部分は液体が蒸発した後に残ったミネラル、黒い円形筋線は液体が蒸発して消失した最後に残した残留物線のように観察できます。
特に中心部の黒い円形筋は、縄文時代にはロクロが存在しておらず、ロクロによる器材の微細な表面模様であることが確実に否定できるので、液体が蒸発した際にできる模様であることの確証になります。
つまり、器台上面へこみに液体を少量いれ、下から熱して蒸発させる行為が確認できます。
器台側面の孔は器台内部下に存在した火源の煙を逃がす、あるいは新鮮な空気を取り込む機能であったことが推定できます。火源とは灰の中に半分かくれた熾火のような状態をイメージできます。
器台は特殊な液体少量を熱して匂いや覚醒成分を得るアロマテラピーに似た活動の道具だった可能性が浮かび上がります。つまり香炉です。器台用途が香炉であるという作業仮説を構築できました。

3-3 器台内面の状況
発掘調査報告書の器台内面のスケッチではメの細かい櫛で引掻いたような多数筋が描かれています。これは模様ではないかと推測します。
発掘調査報告書では「土器の内面の調整は粗雑で、この土器は内面を問題にしていなかったことがわかる。」と書かれていますが、それは土器内面はつるつるに仕上げることがスタンダードだという考えに基づていると考えます。器台内面が実は土器外面に相当すると気がつけば、「土器の内面には模様がある。」と記述されたのではないかと憶測します。器台内面の観察が必須です。そこに模様があり、ススがあることによって器台用途が「香炉」であったという推定の確からしさがさらに高まります。

3-4 No.12器台の再検討
「器台=香炉」作業仮説にもとづいてNo.12器台の再観察、再検討を行うことにします。

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企画展展示の様子

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