2019年2月18日月曜日

加曽利EⅡ式連結渦巻文対向土器の観察

縄文土器学習 33 加曽利貝塚博物館企画展展示土器の観察 11

加曽利貝塚博物館企画展「あれもE これもE -加曽利E式土器(千葉市内編)-」(3月3日まで開催)の展示土器38点の個別観察をメモしています。この記事はNo.9土器です。

1 加曽利EⅡ式連結渦巻文対向土器 No.9

加曽利EⅡ式連結渦巻文対向土器 No.9
有吉北貝塚出土

加曽利EⅡ式連結渦巻文対向土器 No.9
有吉北貝塚出土

2 発掘調査報告書における記述
No.9土器は縄文時代中期土坑(SK780)から出土していて、「千葉東南部ニュータウン19 -千葉市有吉北貝塚1(旧石器・縄文時代)-第1分冊(本文)」(平成10年3月、住宅・都市整備公団・財団法人千葉県文化財センター)(以下発掘調査報告書等として適宜略称)ではつぎのように記述されています。

1は土坑底面に穿たれたピット上に、土坑底面のレベルで横倒しの状態で検出された。口縁部文様帯は、隆帯と沈線による渦巻文を連結した文様を対向する2か所に配し、またその間には中央の円形区画文とそれを挾む2つの楕円形区画文という文様構成の部分と、長楕円形区画文のみの文様構成の部分とが非対称に対向している。胴部には12単位の磨消懸垂帯がほぼ等間隔に配されている。底部は粘土紐の接合部分できれいに剥落しており、遺存していない。出土した土器は加曽利EⅡ式がまとまり、磨消文成立以前のものも含むが、1のあり方から10群土器の時期に比定する。
注 10群土器・・・胴部磨消懸垂文成立以後の加曽利EⅡ式で、連弧文土器が盛行する段階

出土土器挿図
発掘調査報告書から引用

出土土器写真
発掘調査報告書第3分冊から引用

3 観察と感想
3-1 器形と模様
企画展パンフレットに加曽利EⅡ式の代表例として掲載されています。

企画展パンフレットの説明
企画展パンフレットから引用

3-2 口縁部文様帯
発掘調査報告書記載を図解すると次のようになります。

口縁部文様帯の様子

感想追記 2019.02.19
縄文の模様方向が口縁部と胴部で90度異なります。胴部模様作成後に口縁部模様を作成したようです。口縁部模様を作る時にその前に存在した胴部模様を使わないで(チャラにして)、上書きしたように見えます。口縁部の細長い部分に縄文を入れる操作(縦方向に原体を転がす)によりそのようになったのですが、口縁部の意匠独自性を強調するためにわざと胴部と模様方向を変えたと感得します。
口縁部意匠がこの土器の命であると考えます。
対向する区画文が非対称であることなど、この土器を1品生産する時に強い「思い」があり、それを表現したと考えます。漫然とそれらしいデザインをしたのではないと考えます。
土器意匠に強い思いを投影して土器を作った特定個人がその土器を使ったと考えます。
発掘調査報告書に掲載されている多数土器の全てが個別1品生産で、全てデザインが異なり、それが個人に対応していると考えます。

3-3 土器内面と土器外面下部の様子
土器内面にわずかに喫水線様黒模様が残っています。この土器が煮沸に使われたことを指標しています。
土器外面下部の縄文模様は摩滅していて、炉の灰の中に下部が挿入されていたことを指標しています。

3-4 参考 3Dデータ
14枚の写真を使って3Dデータを作成しました。実際に計算に使われた写真は12枚です。

3Dデータの様子
ガラス面反射が表現されてしまっています。ただし画像レベルの表現であり、凹凸(3D位置)には関係していません。ガラス越し写真でも3Dデータ作成が可能であることが判りました。

3Dデータの様子
複数写真が重ならない側面や裏側の3dデータは当然ながらできません。

3Dデータの様子
ガラス面の濃い白反射がかなりある写真が多数含まれているにもかかわらず一定の満足感の持てる3Dデータを作成することが出来ました。
写真では暗くて詳細が判らない部分や影の影響が強い部分の形状が一目瞭然になるので便利です。
土器を手元に置いてじっくり観察できる機会のない一般の土器学習者にとって3Dデータは有力な学習ツールになることがわかりました。

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展示会場におけるNo.9土器の場所




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